第13-2話:知らしめること
「本題は次の二つ。一つが名声。これがまさしくさっき大和が言ってた名声とか武威にあたるものだね」
「それじゃあ、名声とか武威のために私を狙ってるってのは合ってたんじゃないの?」
「ところがどっこい、ただ倒すだけじゃダメなんだ。手強い相手、有名な相手を倒し、それを周りに知らせる。そこまでやって初めて威信としてエネルギー源になるわけさ」
なるほどね。だから私が狙われるのか。
「つまり私は七人しか居なかった現代の代表で、現代人な上に女だから舐められやすくて、しかも軍からの支援も得てないローリスクな異能者だったから襲われてたってことね」
「まあ概ねそうだね。あとこれ言ってなかったけど、大和って実は『愛知にやたらと強い現代の異能者がいる』って有名だったりするみたいだし」
「うげっ」
……ひと月前まで日を追うごとに襲ってくる異能者が増えていたことはそういうことか。
迷惑な噂ここに極まれり、って感じね。
「けれど別に喧伝する必要は無いんだ。例えば大和の場合だったら人知れず戦ってるところを見られていたり、異能者を収容する軍の人が書面を見て『その異能者を大和が捕らえた』ってことを認知したり」
説明しながらパンチングポーズをとるルイが、教壇代わりの机を揺らしその上に乗っていた筆箱を落とす。
何気なく拾い上げると、ルイが「もっと言えば誰かの落とし物を拾ってあげたり」と得意げな表情で言ってくる。
「その人に向けられた感謝、尊敬、恐怖に恋慕。いろんな評価や感情が、積もり積もって威信となって返ってくるわけだね」
あっ、そんなのでもいいんだ。
特段強くなるために何かした覚えはないけれど、今まで戦いについてこられたのはこういうカラクリがあったのか。
「これが威信を増やす一番セオリーな方法。僕らのエネルギーが知らしめる力……威信と呼ばれてる所以だね」
知らしめる……そう考えるとさっきの「やたらと強い現代の異能者が愛知にいる」って私が有名になっているのもあながちデメリットではないのかもしれな——。
いや、やっぱダメだ。その代償が日常の破壊なのはあまりにも大きすぎる。
「それじゃ、最後の『所領』ってのはなんなの?」
他は自分の中身とか、あとは人と人の関係を想起させるのにこれだけ浮いてるって言うか
領の時が付いてるってことは何かしら土地が絡むんだろうけど。
「うーん、今日は説明しない予定だったけどせっかくだしやっちゃうか。じゃあ大和、手出して」
「手?」
そう言われてそれとなく右手を前に掲げるとともに、ルイが「それじゃ、このレンタルルームの受付で見た事務室のおじさんとか、廊下を掃除していたおばさんが仕事をしている姿を思い浮かべて」と意味のよく分からないことを言ってくる。
「まあ……分かったよ」
けれどものは試しだ。
正直顔はよく覚えてないけれど、ここで働いてる人が働いたりランチをとったりしている場面を想像してみると——。
手元に背丈と同じぐらいの柄をした棒切——いや、青白く透明の幕を持った旗が現れた。
「な、なにこれ!?」
「それが大和の旗だね。それをこの建物とか企業のビル、町内会の施設、更には市庁舎に県庁舎……噛み砕いて言うならその共同体を纏める建物に突き刺すことで、そこで暮らしたり働いたりする人々の数に応じた威信が得られる仕組みになってる」
「へえー」
って説明されても実感ないな、まださっきまでの方が分かりやすかった。
自慢なのか何も気にしてないのか、「僕も組織から中国地方の小さな街一つ任されてて」と一人語りするルイを横目に、ものは試しと思いその棒切を大きく振りかぶり床に突き刺そうとすると——。
「ってわけでそこの人々から威信を得ることが——ってな、何やってんだ!? 僕は刺せなんて一言も言ってないぞ!?」
目をガッと見開いたルイが、青い顔になりながら教壇を土足で乗り越え、旗を突き刺そうとする私の腕を鷲掴みにしてくる。
「あっ、確かに。床に穴空いちゃったら大変だからね」
私が手を離すとともに、旗は光の粒子となって消える。
ルイの青くなった顔面もそれとともに血の色を取り戻していった。
「あ、危なかった……今日本全土が見えないパイ生地状態なんだぞ!? この名古屋の緑区も誰かの所領なのを分かってるのか!?」
「えっ……今説明されたばっかだから知らなかったけど」
「この建物に旗を突き立てた途端そいつが飛んでくる——いや、しかも名古屋だから確実に列強の所領だぞ!?」
息を切らし、自分のブレザーの胸元を抑えながら「し、死ぬところだった……」と安堵の表情を浮かべるルイ。
「威信はもう分かったけど……列強ってなに」
「ん? ああ、列強ってのは有志の中立異能者たちの陣営が発表してる最も有力な八人の異能者のことさ」
「へえー」
なるほど、私たちには関係のない世界の話か。
そうやって記憶の中から葬り去ろうとした瞬間、一人の男の名前がおぼろげに頭の中に浮かんでくる。
「……もしかしなくてもだけどさ。その中にロムルスって名前の異能者が居たりする?」
「あー。うん、いるな。しかも上から三番目」
「…………」
聞かないほうが良かったかもしれないというほんの少しの後悔とともに、私がどれだけヤバい男に目を付けられてしまったのかをより一層理解した。




