第13-1話:知らしめること
「とゆーことで! 今日からルイくんの異能対策講座が始まります!」
ルイと一緒にファミレスで夕食を食べ、アパートの近くまで送ってもらった翌々日の月曜日の放課後。
僅かにオレンジがかった陽の光が差し込むこのレンタルルームで、見慣れないメガネ姿をしたルイがホワイトボードの前の机へと手を掛けていた。
「い、いえーい?」
「ちょっとそこ、ノリ悪いぞ!」
教えるのが相当好きなのか、それとも先日私へ打ち明けた悩みから解放されてカタルシスの中にあるのか。
教壇代わりの机に手を突き立てながら前のめりになるルイは、久しく見ないようなはしゃぎ方をしていた。
「いやー……メガネ姿のルイは初めて見たなって思って」
本人には悪いけど、はしゃいでいるルイよりも彼の掛けるメガネの方に目が行く。
自慢げにフレームを持ち上げるルイの姿は、どこか幼気とともに知的な雰囲気を漂わせていた。
そして何より普段メガネを掛けない人のメガネ姿が新鮮なのは言わずもがな、普段のルイってコンタクトだったのかってことにも衝撃を受け——。
「ん、これか? 伊達メガネだよ、家で勉強する時に掛けると頭が良くなれた気がしてね」
ああダメだ、シンプルにアホの子だった。
ルイが「けど授業するには邪魔だな、外そ」とこぼしながらメガネケースを開けるとともに、彼のメガネ姿は別れを告げた。
「今更だけど、座学の担当は僕になりました。生徒である大和くんはドシドシ僕を頼るように」
「はーい、質問です。ってことは他の授業はルイ以外が教えるってことですか?」
「いい質問ですね、大和くん。そのとおりです! って言っても、誰が何を教えるとかまでは分かんないけどね」
ルイが座学か……。
他の科目で知らない人が来たら嫌だなとこの先を思いやりつつも、座学だけでもルイが保証されているだけ幸運かと割り切ることにした。
「コホン……まあふざけるのもこんぐらいにしとこうか。というわけで今日は基本の『き』からだ」
こんぐらいにしとこうとか言いながらまだ教師っぽい口ぶりが残っているのには目を瞑り、彼の言葉へ耳を傾ける。
「じゃあまずは大和にとって身近な質問から話を広げていこうか。なぜ多くの異能者が大和を狙うのか、理由は分かるかい?」
「えっ……名声とか武威のためじゃないの?」
これは今まで斬ってきた異能者から聞いてきたことだし、こないだ町田さんも言っていたこと。
だからかなり自信がある答えだったのに、ルイはあろうことかその答えにペケを付けた。
「残念ながら違います、だって名声じゃ腹は膨れないからね」
じゃあ今までに聞いてきた話はなんだった、と頭の中の疑問符が最大化したところでルイが答えを口にする。
「正解は、僕らが使う異能のエネルギー源……『威信』の量を最大化するため、でした」
「威信?」
「ふむふむ、やっぱりそこからか」
ルイは「分かってたよ」と言わんばかりにマーカーを手に取ると、ホワイトボードに何やら書き込み始める。
「それじゃあ次は当たらなくていいから、この威信量を増やすには何をしたら良いか答えてみてよ」
「うーん…………猛特訓、とか?」
「これも残念、猛特訓するだけじゃ威信は増えない」
不正解を口にするとともにホワイトボードの前からルイが掃けると、彼が書いていたものが明らかになる。
ホワイトボードには真ん中へデカデカと「威信」と書かれている下に、小さく「名声」「精神」「所領」と三つの単語が書かれていた。
「それじゃあ分かりやすいところからいこう。大和は今までに、心持ちが大きく変わった時なんかに身体に余計な力が入ったり、五感が鋭くなったことは無いかい?」
「うーん、言われてみればあるかも」
そう言われてみれば、あの廃工場で「前に進む」と決めたあと、まさにルイが言ったような変化を感じ取った気もする。
「おっ、それは話が早い。これが威信の供給源の一つ目、異能者の精神に由来する威信だ。場合によっては異能の性質が変化することもあるし、唯一自分だけで増やすことが出来る威信の源でもあるな」
あのときはいろいろ吹っ切れたからだと思っていたけれど、物理的に力や五感が強くなってたのかと認識を改めた。
「んー? ってことは自己啓発本とか読み漁って成長すればいいってこと?」
「それがそうもいかなくてね、異能者の個々人によってどう心持ちが変われば良いかが違ってくるんだよ」
ルイは「だからあくまで増えたらラッキー、ぐらいに思ってた方がいいよ」と話を締めくくった。




