第12-3話:本懐
それからというものの、一つ一つ誤解を解いていく作業が始まった。
まずは現代の異能者に対する軍の基本的なスタンスに対して。
私が思っていた「戦力として利用しようとしている」というのは、まずをもって半分間違いだった。
現代の異能者は舐められやすく、よく武威を示す標的になる上に民間人のためその保護を大前提にしていると説明していた。
その上で戦力として使うのはあくまで二次の目的で、望むなら保護だけを申し出ることも出来たらしい。
そして次に、一人暮らしを始めて以来日々送られてくる無数の封筒。
内容はさっきの保護要請で、私がおじいちゃんの家で暮らしてたときはおじいちゃんを通じてその状態を確認していたけれど、私がお父さんの遺産を持ち出して家出して以来その連絡が途絶。
しかも異能者とはいえ民間人かつ未成年、過度な接触はいろいろ向こうの都合が悪い。
だからこそあくまで面会みたいな穏便な方式のみの接触を試みていたんだとか。
最近になって封筒が派手になったのはロムルス関連でその危険度が高まったのが理由で、近々またルイを通じて面会の要請を出すつもりだったらしい。
そして三つ目に、軍側の事務的な態度について。
ジープの中で雑談に花を咲かせていた町田さんの態度に反して、主に異能者を軍へ突き出す手続きに対し冷たい態度が中心になったのは……結論から言うと、私に原因があった。
私が中学生になり、捕らえた異能者を軍に突き出すことが日常になりつつあったころ。
血を流すために水道で顔を洗っていた私へ温和に接そうとした兵士に、私自身が激しく反発してしまったらしく。
でも軍と接触することを更に毛嫌いするようになった私が、異能者を軍へ突き出さずにそのまま放置したり隠したりことは避けなきゃいけない。
その苦肉の策として出されたのが、私の方も冷淡に処理できる「事務的な対応」を採ることだったみたいで、以後マニュアルに追記されたんだとか。
他にもいろいろあったけれど、大きなものは次が最後。須藤武蔵について。
とは言ってもあいつに関しては誤解もクソもなく見たまんま。
まずをもってあいつが口にしていたことの大半は軍の意見とはてんで異なる。
態度は最悪のそれ、面会に来ないコストは織り込み済み、更にルイの組織との関係を考えると「あれ」呼ばわりは論外の域。
強いていうなら面会のコストを払い続けてたってことに関しては私が悪かった気もするけれど、それすらも町田さんは「あの子が咎めることじゃない」ときっぱりいい切った。
……っていうか、いま思えばあの恰幅の良い兵藤曹長が須藤へ突然浴びせた裏拳も今となっては理解できる。
実際あれが無かったら私は冷静になれなかったし、町田さんの初手謝罪があったとはいえここに来ようとも思えていなかったかもしれない。
「ほんとに、あの子のことについては謝罪してもしきれなく——」
再三謝罪する町田さんへ対して、正直聞き飽きていた私は「もう大丈夫ですから」と、最初と比べるといくらか柔らかくなった口調で返事をした。
でもなんか、そうやって話を聞いてみてちょっとすっきりした気もする。
もちろん、まだわだかまりがあるのも感じる。
分かることに限度があるとはいえ、学校へ軍人のお偉いさんが来たことも手違いがあったことは予想できても詳細は分からず終い。
けれど、ちょっと考えてみれば私は未成年の一般人。
強い人間だからっていろいろ都合よく使うと問題が起こることは、ヒーロー映画を観てるときに何度も観てきた展開でもあった。
「でも……一つ思うことがあるんですけど」
さっきの擦り合わせの中で何気なく出てきた一つのことが気になり、おもむろに問いを口にする。
「ルイを通じて接触、って言ってましたけど何の用事があったんですか」
今日みたいに軍への誤解を解くことも目的のなかにあったことは予想に容易い。
けれどそれだけなら今まで通りでも問題ないはずで、途端に派手になった封筒と併せて何か特別な用がある気がしてならなかった。
しかも「ルイを経て接触」っていうのも私の嫌な予感を刺激する。
「ええとね……前ほど緊急の用があるわけではないんだけれど」
町田さんは書類の山の中からカレンダーの付いた一枚の紙切れを差し出してくる。
紙面上には四月の中頃から私今に至るまでの一ヶ月ぐらいの日付が記されていた。




