第12-2話:本懐
けれど先に話を始めておくのか、その言葉に反して「じゃあそろそろ本題に入らせてもらうわね」と背筋を伸ばす町田軍曹。
それを目の当たりにして私の方も僅かに姿勢を正した。
「初めまして、改めて自己紹介させてもらいます。日本陸軍特別異能対策旅団所属の町田聡実と申します。階級は二等軍曹です」
「特別……異能? 旅団?」
ダメだ、異能の旅団って言われると昔お父さんの部屋で読んだ漫画に出てくる蜘蛛マークの殺人集団しか思いつかない。
「えっと、異能者対応とか『ゲーム』の戦略を組み立ててる部隊だと思って貰えればいいわ」
横へ目を向けると、そんなこと知っているはずのルイも小さく首を縦に振りながら話に耳を傾けている。
とりあえずこの場は形だけでも真剣に話を聞こうと、頭の中に湧いてでたファー付きコートを羽織ったオールバック男を記憶の底へとしまい込んだ。
「そして……このような正式な場をお借りして、軍曹という階級ではありますが軍を代表して謝罪しなければならないことがあります」
また須藤が私たちへ言ったことについてか、と頭の中で容易に関連付けられる。
別にそれは最初にもその道中にも散々聞いたし、別に今更どうだって——。
「先日は大和めぐみさんのことをお守り出来ずに、申し訳ありませんでした」
「……え?」
思ってもいなかった内容に、思わず疑問の言葉が漏れ出るも、ルイは何か含みのあるため息を一つした。
それを拾いたいところではあったけれど、まずは目の前でまたもや深々と頭を下げる町田軍曹に対して頭を上げるよう、今度は冷静な口調で言った。
「……なんで、軍の人が謝らなきゃいけないんですか」
多分、町田軍曹が言う「守れなかった」の話は霊兵や須藤のことじゃなくて、ロベールからジャン、そしてロムルスへと連なる一連の騒動。
あの結果として私の腕にはロムルスの刻印とその契約が課されたわけだけど、だからってこの人がそれについて謝る義理は無いはずじゃないの?
「国民をお守りすることが我々の責務にも関わらず、事態への対応能力が足りず——」
「そんな薄っぺらく理由を聞いているんじゃないんです。本当の理由を言ってください」
そんなのは私が知ってる「軍」じゃない。
もっとあるんじゃないの? 例えば謝罪して懐柔して利用しようとかさ。
だって、こんなの違うじゃん。
学校へずけずけ入ってきて「大和さんの欠課欠席については出席停止扱いにしてほしく」なんてされたくもない特別扱いをしてきて。
その上学校の生徒にその姿を見られて噂されて。
異能者との戦闘の後での事後処理でも冷たく事務的に対応してきて。
私の力欲しさからか、ここ一年ぐらいは頻繁に面会の要求の旨が記された封筒を送ってくる奴らなんじゃないの?
「いえ、薄っぺらくなどありません。これが私たちの本懐です」
「……いきなり、そんなことを言われても」
そう言う町田軍曹の瞳に濁り気が無いのが余計に意味がわからない。
自分でも気が付かないうちに気が立っているのかな。
振り子時計のゼンマイの音が大きくなっていく。
ただでさえこの身体は耳が良いのに、過敏になってるせいですっごい耳障り。
もういっそのことコンセントを引っこ抜いて——そう思った時、私の左足に何かが触れる。
ふと見てみると、ルイの足裏が私の左足をスリッパの上からそっと抑え込んでいた。
大きくなったゼンマイの音の正体は私の貧乏ゆすりの音だったのか、振り子時計から鳴っていたと思っていた音も自然と小さくなった。
「……大和、君の気持ちも尊重する」
ルイは足を退けながらそう前置くと、その続きを口にしていく。
「けれど、もう一回良く見て欲しいんだ。この人たちは、少なくともわざと大和のことを傷つけようって人たちじゃない」
そう言われて再び町田さんの方へと目を戻すと、相変わらず濁りのない瞳でこちらのことを真剣に見つめ続けている。
しかも、ルイが途中で割って入ったことに言葉の一つすら漏らしていない。
だからって、今までのこととか今日の須藤のこととか許せるわけじゃないけど。
……もしかしたら、少しだけ間違ってたのかもしれない。そう思ってしまった。
「分かりました。わざわざありがとうございます」
目上の人から謝罪された経験が無いに等しいため、どこかで聞いたの台詞の受け売りで町田軍曹へとそう返す。
横で緊張の面持ちをしていたルイも、僅かに口の端を綻ばせると町田軍曹の方へと向き直った。
「大和……さんは、過去にいろいろあったみたいで。一つずつ、誤解を解いていった方が良いと思います」
私がやりづらそうにしていたからか、自ら間に入ってそう提案するルイ。
それに対して町田軍曹も「そうしましょ」と首を縦に振った。




