第12-1話:本懐
「はー……結局来ちゃったな」
名駅から車で十分ほど南。
無骨なコンクリートの外見をした軍の事務局の応接間のような一室で、紅色のフェイクレザーで出来た三人掛けソファへと体重を預けていた。
私の横にルイの姿はなく、それだけじゃなくてあのムカつく銀髪野郎も、自分のことを町田聡実と名乗ったあの軍曹の姿もない。
閉まりきらず僅かに開いたままのドアの隙間からは、廊下の様子とともにルイや他の職員の話し声が耳に入ってくる。
あまり履き心地の良くないスリッパに耐えながら応接間の中へと目を向けると、真ん中には小さなテーブルが置かれていて、その四方を微妙にベタつくこのソファが囲んでいた。
室内は微妙に埃っぽくて、それだけじゃなくて壊れているのかそれとも私の時間感覚がおかしいのか。
室内に置かれていた暗い木目調をした振り子時計が鳴らす「チッ、チッ」という音の感覚が私の鼓膜をばらばらな間隔で揺らす。
ここへ来たのは「せっかくだから話を一度してみよう」と提案してきたルイありき。
このままずっと私一人で話をさせられたらと思うと心細いし、さっきみたいに忌憚のない正直な言葉を口走りかねない。
……それに、単純に遅い。一体いつまで待たせる気なの。
そう思った頃になり、ようやく一人の女性が閉じかけになっていた応接間のドアを開けた。
いくらかの書類の入ったピンク色のファイルを脇に挟み、上に何か乗ったトレーを両手した軍服姿の女性。
町田軍曹は髪を耳に掛けながら「遅れてしまってごめんなさいね」と謝罪の言葉を口にすると、私の真ん前の一人掛けのソファへと越し掛けた。
軍曹が机の上にそっと置いたトレーの上には、お茶の入ったコップが三つ乗っていた。
「この部屋ちょっと湿っぽいわね、暑くはない?」
「暑くないです」
「そう、良かった。あと飲み物だけど緑茶で良かった? 麦茶とかお水、あとコーヒーマシンなんかもあったから——」
「いらないです」
そうやって即答したあとも、ちょっと間を置いてどうでもいい話をマシンガンのように垂れ流し続ける。
この流れは須藤と彼を殴りつけた男——兵藤曹長を置いて私とルイ、町田軍曹の三人だけでジープに乗ってここまでやって来た時からずっとそうで。
ちょっとした雑談に始まり、愚痴混じりに須藤のことを再三謝ってきたりとかいろいろ。
……ってか、いつまで喋ってんのこの人。嫌いではないけど得意なタイプじゃない。
それにルイも知り合いだったのか、ちょっと楽しそうに話してたのが腹立つ。
そうやって移動の最中の記憶を振り返りながら会話のキャッチボールを撃ち落とし続けていると、町田軍曹のマシンガントークがぱたりと止まる。
いろいろ身支度をしていた町田軍曹が、私の返事に一瞬動きを止めたあと「……そう、ちょっと早とちりしちゃったかもね」と物悲しげにこぼした。
「…………ルイは今何をやってるんですか」
……なんか、そういう反応されると私が悪者みたいになるっていうか。
元々ルイが何やってるのも気になるし、ついでに聞いとくかって思っただけで。
「彼なら組織と軍の本部とで連絡をとって入局許可の照合を行ってるところだから、もう少ししたら来ると思うわよ」
って言ってるけど嘘でしょ。
どうせルイも軍に良いように使われてるだけなのは須藤の言葉を見れば明らか。
もしこれでルイが「ごめん遅れた!」なんて言って入ってきたら、ただ単にあいつの考え方や対応が終わってたって話に——。
「ごめん大和、遅れた!」
「…………マジ?」
そうやって疑り掛かっていたところへ、ルイが額から汗を垂らしながらドアを勢いよく開いたもんだから、気の抜けた声が不意に漏れ出てしまった。
「あれ……もしかして僕が聞いちゃいけない話してました?」
「いいえ、大丈夫よ。掛けてちょうだい」
町田軍曹がソファを勧めるのをみて、私は三人掛けソファの真ん中から少しずれたところに座り直した。
「じゃあ失礼します」
にも関わらず、町田さんから見て右手の一人掛けソファに座ろうとするルイ。
私が目線を送っても、こっちに気が付いていないのか全く目線が合わない。
「……ごめんねルイくん、やっぱりそっちの三人掛けソファの方に座って欲しいんだけど」
「大丈夫ですよ、大和の横でいいですか?」
ルイはそう言うと、ソファの横に立て掛けられたバッグを持ち直して私の横へと掛けた。
「ごめんね、まだこっから二人増えるかもしれないから」
ファイルから取り出した書類をトントンと整理しながら、町田軍曹はそのワケを話した。
またここから二人増えるのか……イヤ以外の感想が出てこない。




