第11-6話:手を掴むこと!
息を押し殺すようにして返事を続きにしようとするルイを置いて、一歩前へと出る。
「あんたね。さっきから黙って聞いてれば一体何様のつもり?」
「今お前とは話していな——」
「お前とは話していないって、そりゃ友達のことなんだから前に出るでしょ」
至極真っ当なことを言ったつもりなのに、須藤はため息を漏らしながら真っ当に取り合おうとしない。
彼がやっと続きを口にしたのは、ヒールの固い底が貧乏揺すりをし始めてからだった。
「逆に聞かせてもらうが……なぜお前はあいつと行動を共にしているんだ」
「なんでって、さっきも言ったじゃない。友達って——」
「あれの正体を知った上でのことなのかと聞いているんだが」
……なるほどね。「あれ」呼ばわりね。
どうやら話を穏便に済ませるつもりはないみたいで逆にやりやすい。
「ええ、知った上で友達やってるけどなんか文句ある? っていうか、初対面なのに私の神経を逆撫でするのが随分とお上手ね」
「……そうか。過去の異能者を激しく恨んでいると聞いていたが。そうか」
吐息の混じったその言葉には、隠す気もない失望のそれを孕んでいた。
元より私にとっちゃ現代も過去も無かったし、あんたは今この瞬間いけ好かない異能者リストにぶちこまれたんだけどさ。
「あとさ、その鍔弾くやつやめてくれる? 威嚇のつもりか知らないけどさ、さっきからガンガンうるさいんだけど」
「…………」
けれどそれをやめるどころか、より一層強く鍔を弾く須藤。
頭に血ののぼる感覚とともに、もう何歩か前に出る。
「ッ!? 下がれ大和!」
制止しようとするルイの声が耳に届いていた時には既に、須藤の前に仁王立ちしていた。
この行動が「軍の人間は私へ手を出してこない」っていう狡い根拠の上に成り立っているのは否定しない。
けれど仕方ないじゃん、ここまで私のことを挑発してきたのはあっちの方なんだから。
弾かれる柄の頭を右手で抑える。
それと一緒に私のことを一番強い睨み方で睨み返してくる須藤武蔵。
上空にいる黒鷲の目線から、後ろでルイがわなわなとしている様子が送られてくる。
互いが武器を抜いてないだけの、一触即発のピリついた雰囲気。
けれど、こうやって向き合ってもこいつとは全く分かり合える気がしない。
ずっとここで向き合ってんのも馬鹿らしいし、どっか隙を見てルイと一緒に逃げて——。
そう思い、この場の畳み方を模索し始めたときだった。
公道の方からブレーキ音とエンジン音が同時に響いたと思えば、そこから公園の敷地内へと入ってくる一台のミリタリーグリーンのジープに目が釘付けになる。
しまった、軍の車両だ。
別にこいつが一人で行動してるって決まってたわけじゃないのに、思わぬ増援に細くなった喉から音が漏れ出る。
ジープが私たちの近くまで乗り入れると、助手席から恰幅の良い中年の男性、そして運転席から若い女性が姿を現した。
人数は二人。まずいな、早いとこ切り上げたいのにこれだと更にややこしいことに——。
けれど、その予想は思わぬ形で裏切られた。
「須藤ッ! お前何してくれとんじゃ!」
須藤の上司か何かなのか、私よりも拳二つ分は大きいだろう男が怒号を響かせながら大股でこちらに歩いてくる。
「勝手に飛び出して無線切り忘れた挙句、民間人になんだその口の聞き方は!?」
「……言っていることは間違っていなかったはずだ」
ジャケットのポケットから取り出した無線機が切れていなかったことを確認した須藤は、そうやって開き直るようなことをこぼすも。
男はそれに構わずに「黙れッ! 何も合っとらん!」と吐き捨てながら須藤の顔面へ裏拳をかます。
そのまま身体が宙を舞いながら受け身をとる須藤。
って言っても須藤は異能者、物理的に効いてる様子はない。
「来いッ! 叩き直してやる!」
須藤へついてくるよう促した男は、またもや大股でジープの方へと戻っていく。
でもあろうことか、須藤は最後に私のことを一瞬キリッと睨みつけてきた。
……いいわよ、別に。私もこれからずっとそういう目でみるから。
でもこれで終わりかな、別にあいつからの謝罪もいらないし適当にあしらって続きを——。
そう思っていたら、今度はその後ろで待機していた女性が決心をつけたような表情を浮かべ私の前に出張ってくる。
その女性は見た感じ三十にも届いていないぐらいの若い女性。
茶髪の上に軍帽を被り、陸軍の制服を着込んでいて背丈は私のそれよりもずっと低かった。
最初の印象はそれだけで、本来なら特に記憶に残らないような何の変哲もない女性。
「先ほどは、うちの須藤が申し訳ありませんでしたっ!」
「っ!?」
けれど、そのイメージは次の深々とした謝罪の前に完璧に打ち砕かれる。
「私たちの指導教育がなっていないがためあのような無礼な物言いを——」
「ちょ、ちょ、ちょっと待ってください!」
お堅い分からず屋のイメージのあった軍人が私に対して頭を下げているのを目の当たりにして、思わずその肩を掴み、頭を下げるのをやめさせてしまった。
「そ、そうでしたね。自己紹介が遅れました」
女性はそう口にすると、その右胸についているワッペンを摘みながら自分の所属を明らかにした。
「日本陸軍所属の二等軍曹、町田聡実と申します。以後よろしくお願いします」
今まで私のもとに訪れていた、冷淡な態度の軍人とは違う。
その女性——町田軍曹の浮かべる事務的な謝罪の表情の裏には、何か朗らかなものが見え隠れしていた。




