第12-1話:本懐
「はー……結局来ちゃったな」
名駅から車で十分ほど南、無骨な軍の事務局の応接間のような一室。
壊れているのかなんなのか、不揃いのリズムで鼓膜を揺らす振り子時計の音。
そこでルイと一緒に、さっきの女性の軍人が来るのをソファに横並びになりながら待っていた。
「来ちゃったって……やっぱ嫌だった?」
「嫌っていうか、なんていうか」
本音を言うと嫌だけど、さっきあの広場で「行く」って言った手前あんまりゴネるのも格好がつかない。
っていうか逆に、あんな扱いされたのになんでルイは嫌じゃないわけ?
現地にあの恰幅の良い男の軍人……兵藤曹長と須藤を置いて私たちと町田軍曹の三人でジープに乗ってここへ来るまでの最中、ルイの口から須藤と何があったか聞いたけど、その理由はなかなかに理不尽で。
ルイがまだ広島に居たころ、異能事件の後処理に訪れていたときに須藤に「過去の異能者」として名前を覚えられ、愛知に来たあと用事で軍基地に出入りするようになった頃に「二度と姿を見せるな」って言われたそうで。
裏を返せばそれ以外には何にもなくって、少なくとも直接嫌われるようなことをした覚えはルイには無いらしい。
でも…………そんだけ過去の異能者を恨むだけの理由が過去にあったことも、ハンドルを握っていた町田軍曹に仄めかされる形で聞いた。
具体的に何があったのかは知らされなかったけど……同情できるし、納得できるところもある。
だからって殺しを示唆して良いことにはなんないけどさ。
っていうかあの町田とかいう軍人もいったいなんなの?
なんて愚痴大会が第二幕に突入しかけた頃になって、ようやく一人の女性が閉じかけていた応接間のドアを開けた。
ピンク色のファイルを脇に挟み、上に何か乗ったトレーを両手で持った軍服姿の女性。
町田軍曹は髪を耳に掛けながら「遅れてしまってごめんなさいね」と謝罪の言葉を口にすると、真ん前の一人掛けソファへと腰掛けた。
軍曹が机の上にそっと置いたトレーの上には、お茶の入ったコップが三つ乗っていた。
「この部屋ちょっと湿っぽいわね、暑くはない?」
「……まあ、ちょっと暑いです」
「そうよね、じゃあちょっと冷房強めて——あと飲み物だけど緑茶で良かった? 麦茶とかお水、あとコーヒーマシンなんかもあったから——」
「別になんでもいいですって」
「よかった。あとさっきはごめんね、子どもだからって入口で通せんぼなんて——」
「………………」
私が即答したあとも、町田軍曹はどうでもいい話をマシンガンのように垂れ流し続ける。
この流れは三人でジープに乗ってここまでやって来た時からずっとそうで。
私の晴れ着とか髪色みたいなちょっとした雑談に始まり、愚痴混じりに須藤のことを再三謝ってきたりとかいろいろ……って、いつまで喋ってんのこの人。
嫌いではないけど得意なタイプじゃないし、なんならちょっと鬱陶しい。
それにルイも知り合いだったのか、話題によってはちょっと楽しそうに話してたのが腹が立つ。
あくまで、理由の一つでしかないけどさ。
ふうと一息つき「じゃあそろそろ本題に入らせてもらうわね」と背筋を伸ばす町田軍曹。
さっきまでのお喋りが嘘のように引き締まった声。
それを目の当たりにして私たちの方も僅かに姿勢を正す。
「初めまして、改めて自己紹介させてもらいます。日本陸軍特別異能対策旅団所属の町田聡実と申します。階級は二等軍曹です」
「特別……異能? 旅団?」
「異能者対応とか『ゲーム』の戦略を組み立ててる部隊だと思って貰えればいいわ」
旅団って聞いてもクモマークの殺人盗賊集団しか思い浮かんでこなかったところに補足を入れる町田軍曹。
横へ目を向けると、知っているはずのルイも小さく首を縦に振りながら話に耳を傾けている。
とりあえずこの場は形だけでも真剣に話を聞こうと、頭の中に湧いてでたファー付きコートを羽織ったオールバック男を記憶の底へとしまい込んだ。
「そしてこのような正式な場をお借りして、軍曹という階級ではありますが軍を代表して謝罪しなければならないことがあります」
自己紹介をしたときと同じ、至って真面目な声調でそう告げる町田軍曹。
謝らなきゃいけないことって、また須藤が私たちへ言ったことについてか。
もう散々聞いたし、別に改善して欲しいわけでもないから今更どうだって——。
「先日はあなたを——大和めぐみさんをお守り出来ずに申し訳ありませんでした」




