第10-3話:許さないからね
「あっ、ルイからだ」
まだスマホの画面見てないけど分かる。私にインリアでメッセージを送ってくるのは香蓮とルイの二人だけで、その片割れは今目の前にいるから。
予想が裏切られることもなく、ロックを解除するとそこにはルイからのメッセージが送られてきていた。
「ごめんね、香蓮。ちょっとルイからメッセ来てて」
「いいよ、大丈夫」と香蓮が口にしたのを聞き取ってから、残りのこんにゃくゼリーを口に入れながらスマホのキーパットを指先で叩いた。
『お昼そっち行けなくてごめんな』
『いいよ、別に』『ってか教室でスマホ弄ってて大丈夫なの?』
『えっとな』『鈴原からは友だちと食べてるって聞いてると思うんだけど』『実は違って』
『ん?』『一人で食べてるの?』
『うん』『ちょっと考え事しながら』
『だいじょぶ?』『それって私が聞いていいこと?』
『それなんだけど』『あした一日、時間くれないか』
『え?』『私はいいけど』『香蓮の予定までは把握してない』
『うーん』『えっとな————』
「っ!? うぐっ!」
ま、まずい。ルイがとんでもないこと言ってきたせいで喉にゼリーが!
手にしてた木製のフロアに軽い音を立てながら落ちるけど、このままだと死ぬ!
「ちょ、ちょっとめぐちゃん!? 大丈夫!?」
「っぐ、す、水筒……」
自分の水筒に手を伸ばし、お茶で流しながらなんとかゼリーを飲み込みきる。
でも死にかけたことはどうでもいい、問題はさっきのメッセージだよ。
もしかしたら何かの見間違いかもしれないし、今見返したら別のことが書いてあって——。
そう自分を言い聞かせた時にはすでに、香蓮が落ちた私のスマホに手を伸ばし、その画面を見つめながら固まっていた。
かと思えば、血眼になった彼女が私の肩を掴んで強く揺さぶって来る。
「めぐちゃん! 今日の夕方! ショッピングモール行くよ!」
「えっ、でもモールはこないだ」
「文句言わないで! 強制連行!」
「そ、そこまでする必要ある?」
「ええっ!? めぐちゃん分かってないの!?」
珍しく言葉を荒げる香蓮。
こんな香蓮を見るのは、香蓮の推しのライブチケットが外れていた時以来だった。
でも私の「そこまでする?」って言葉も嘘。
さすがの私もにルイからのメッセージの意味は重々分かっているつもりだった。
——明日は大和だけで来てほしい。
これが、ルイからの最新メッセージにそっくりそのまま記されていた一文。
「だってめぐちゃん、これは……」
息を肩で大きく吸う香蓮。
若干興奮気味に、既に理解していた私へその事実を重ねて突きつけてくる。
「誰が見ても疑わない、デートのお誘いだよ!!」
******
翌日の五月十日の昼十二時ごろ、名古屋駅の北あたりにある栄生駅の駅構内のお手洗いで。
私は洗面台の鏡に自分の姿を映しながら、前髪やブラウスのフリルをあーでもないこーでもないといじくり倒していた。
昨日、ルイから来たあのメッセージのあと。
私は香蓮の言うがまま、こないだ一緒に行ったのと同じモールへと連行されていった。
そこで二十着以上の上下セットを、子供が自分の人形を着せ替えするみたいにあれこれと試着させられた。
そればかりか店のラインナップに気に入らなかった香蓮は、モールでスカートを一着だけ買うと私を自分の家に連れ込み、これまた何着か着せ替えて最終的に今身につけているトップスを「これ着て!」なんて言いながら押し付けてきた。
そんな着せ替え職人鈴原香蓮が選んだ上下セットは、良くも悪くも私らしくなかった。
トップスは柔らかい生地で出来ていて、飾りすぎない程度にフリルが付いたベージュの袖無しブラウス。
そして、横断歩道の標識のペンキを原色でぶちまけたみたいに真っ青な、これまたふわっとしたフォルムのスカート。
おめかしした私の姿を「めぐちゃんは脚が長いから、下手に脚を出すよりもロングのスカートでおしとやかに見せた方が映えるからね!」と香蓮が締めくくったのは今朝のことだった。
「うう……学校のじゃないスカート慣れないよ」
通気性の良いスカートが気持ち悪いけど、今は顔のほうが大事。
香蓮が昨日化粧も選んでくれたけえど、今日はポーチに入れただけで使ってない。
厳密には今朝試しに化粧してみたんだけど、結果召喚されたのは目の異様に大きな化け物。
そんなわけで今日はその化け物を洗い流してから保湿、軽くファンデで下地をつくってきたぐらいで、化粧らしい化粧はしていない。
幸いなことに顔の産毛や眉を剃って整え、リップを塗って唇に艶を出すだけでも顔の見てくれは最低限確保出来るし、美容院は先週行ったばっかり。
「ああもう! 埒があかない!」
私としてはいつもの格好で行ってもよかったと思ってたところを、わざわざ香蓮がおめかししてくれたんだ。
変にいじくったりせず、堂々と行けば良いに決まってる。
ある種の割り切りというか諦めを感じながらも小さく息を吐き、さっき降りてきた人の人混みに紛れるように駅の構内へと出ると。
栗色の髪毛をした見覚えのある男の子が、私の姿を一度見るなりその脚を止めて向き直ってきていた。




