第1-4話:檻に差す光
「人に物を言う時は先に行動で示してからですよ、お嬢さん!」
直後、私はある場所へ向かって一直線に走る。
ロベールはナイフを投げ、堅実に牽制してきた。
もう飛び道具は斬れるものとして扱わない。
硬度に関わらず、剣の腹で弾く。
手を伸ばす先は、重たい座板のブランコ。
二本の鎖を左手で鷲掴みにし、根元へ剣を振るう。
鉄の擦れる甲高く嫌な音と共に鎖がバターのように容易く斬れた。
切れた鎖を左手で握り込めば、これで即席の鎖鉄球の完成。
唐突に伸びたこちらの射程に、ロベールの眉が初めて寄る。
左手にブランコを担ぎつつ、飛び道具を弾き、避ける。
あと一歩で届くところまで踏み込んだ時、ロベールは残る二体の蝋人形を捏ねて短剣を形作った。
――初めて、守りに回った。
勢いのままモーニングスターを叩き込むも、短剣の餌食になる。
けど、それでいい。
役立たずになったモーニングスターを捨て去りぐっと距離を縮める。
大きく振りかぶり隙を晒したロベールは堪らず距離を取った。
距離を詰め直せばいける……!
暗器もまた避けて、弾いて見せる……!
そう決意し、踏み込んだ次の瞬間だった。
「フッ……! プレゼントをあげましょう!」
彼は粘つく笑みを浮かべ、自らのスーツを脱いでこちらへ覆い被せてきた。
油と枯れ草みたいな微かな加齢臭が鼻を突き、視界が塞がれる。
その直後、全身に突き刺すような激痛が走った。
スーツを一瞬で引き剥がすと、周囲には無数の蝋製まきびし。
スーツの内ポケットにも、同じものがびっしり仕込まれていた。
私の身体にもいくつも食い込んでいる。
隙を逃さず、ロベールは両手に短剣を構えこちらへ踏み込んでくる。
けれど、僥倖……!
勝ち筋は元からロベールの意表を突くこと。
スーツの襟首を左手で掴み、全身の激痛に耐えながら力任せに振るう。
団扇みたいに広がった布が地面の粗い砂を打ち上げた。
「しまっ──!」
一瞬。瞬きより僅かに長いほんの一瞬の隙。
けど、その一瞬で十分だ。
左肩から抜き、胸ポケットに隠していた返礼品をロベールへ向けて放る。
迷えば、その隙に決められる。
なのに。
「ハッ……なるほど、なるほど……!」
ロベールはその返礼品を避けることもいなすこともせず、ただ己の右肩に突き刺さるのを受け入れた。
にも関わらず、ロベールはいやらしい粘ついた笑みを浮かべてばかりいる。
――何のつもり? 何か策が?
いや、今更何が起きても勝ちは揺らぐはずはない。
その自信で彼の元へ踏み込んだ瞬間、あの不気味な甲高い声が響く。
「バクロ! バクロ!」
ロベールの帽子から、蝋人形がぼとりと落ちる。
――無視。その選択は取れなかった。
黒いロングヘアに青いインナーカラー。
あからさまに私を模した蝋人形。
「大和メグミハ、二〇一九年ノ殺人ヲ悔イテ――」
「ッ!」
瞬間、斬った。
ロベールじゃなくて、蝋人形を。
続きを、聞きたくなかった。
「貰いましたよ、お嬢さん!」
瞬間、ロベールが剣を大きく振り上げながら強く踏み込む。
私の無鋒剣の剣が届く範囲内。
今からでも先んじてロベールを斬ることは出来る。
けれど、近すぎた。踏み込まれすぎた。
無鋒剣を力強く振ろうと思うと、皮や肉だけでなく胸骨を、臓物を丸ごと斬らなければならない距離。
勝つには、そうするしかない。
けど。また殺すの? 人を?
そんな迷いとともに駆け巡る、肉に刃を深々と突き刺し、奪うあの感覚。
戦いの中に持ち込まれるには、あまりにも大きすぎる迷い。
――してやられた。
その時だった。




