第26-3話:原罪
「……それは、異能も含めてってこと?」
私がそう聞くと、ルイは確かに「そうだ。ゲームも、異能も、全部なくって。大和も異能を持たない、非異能者だけの世界があったら」と答えた。
「ある。今まで何度も考えた」
何か誘導されている。どちらに誘導してるのかは分からない。
だからこそ、その裏を考えることなく正直なことを口にした。
「うん、僕もそう思う。目の前で人が死ぬ度に『こんな力無かったら』『みんなが少なくとも命を脅かされることなかったら』って何度も……でも、一年前に気がついちゃったんだ」
その答えに少し悲しそうな表情をするルイ。
かと思えば、彼は考えてもみなかったことを口にした。
「異能が、ゲームが無かったら。本田ルイは、この世界に存在してなかったことにさ」
「…………え?」
なんで? なんで、話がそんなに飛ぶの。
確かに異能が無かったら戦いに巻き込まれることはなくて、それで人格も変わるだろうし。
それこそ異能があるせいでルイの中にいる人が目覚める可能性も——。
「……あっ」
「気がついたみたいだね。そうだ。異能が無かったら僕は、同じく僕の身体の持ち主はこの時代に来ていない。だって考えてみてよ、ベッドの上で死んで、気がついたら今の時代の日本にいる。過去の異能者はみんな口を揃えてそう言うなんて、すごく不思議なことだ」
……もしもお父さんが生きてたら。もしも、香蓮の足が足蹴にされることがなかったら。
そんなことが起こるはずない世界だったら。
私はルイと抱きしめ合うことも、ルイと会うことも、ルイを駅で見かけることすら無かったってこと?
「もちろん、これはもしもの世界の話さ。誰かがゲームに勝ってやり直しをしたら分からないけれど……それもどうだか」
「そ、そうだよ。だから——」
「僕は、この厄災を終わらせたい。異能は無くならないかもしれない。異能を完全に否定すれば僕は消える。だからせめて、この争いの一番の原因を消したい!」
ルイはそう言うと、塔の真ん中の方へ向けて手のひらを向けた。
するとそこに煙のような、けれど何か形を持った、一枚のドアぐらいのサイズをした四角形が出現した。
「これはゲートって呼ばれてるものだ。これに自分の威信を注いでしばらくの時間起動させ、それまで守りきってからくぐればやり直しを。壊せばゲームを終わらせることができる」
「なんでそんなこと知ってるの?」
「過去の異能者は、みんなこれを叩き込まれるんだ。目覚めた瞬間……僕は確か、物心ついたときだったかな」
ゲート……これを起動させて壊せばゲームが終わる。
その姿形を、輪郭を、気配を。きっちりと記憶してから、私はルイの方へと向き直った。
「けれど、僕にとってはゲームがあっても存在が消える可能性があるのは知っての通りだ」
ルイの中に眠っている誰か。
その誰かが目を覚ましたとき、ルイはルイじゃなくなってしまうかもしれない。
「今のところ、そうなっても僕を肯定してくれるって言ってくれる人はいても、手を取って引きずり出してやるって言ってた人は君だけだよ、大和」
「つまり……私に死んでほしくないってこと?」
「それだけじゃない。君だけが前に出るのはもう終わりにしたい」
ルイはそう言うと、自分の胸に拳をドンと当てて。確かに私へこう告げた。
「僕は学校を辞めて、今回の会議で所領を全部取る!
その代わり今まで以上にゲームを終わらせることに邁進する!
大和は、この六年の間血反吐を吐きながら手に入れた日常を守って!
僕の隣に一生居てくれ!
それが一つ目だ!」
……ルイが、学校を辞める。ゲームを終わらせる事に邁進する。
っあれ? ちょっと待って。
今なんて言ったって聞きたいことが二つあるけど、まずはその片方から。
「一つ目があるってことは、二つ目があるってこと?」
一つ目は今までの流れからなんとなく読めていたことではあるけど、二つ目があるのか。
ルイは大きく息を吸いながら「ああ、そうだ!」と高らかに認めると、その前ふりを口にした。
「今日の僕、格好良かっただろ? 思わず『右腕になって欲しい』って思っただろ?」
「ふふっ……そうだね」
こんなナルシストなこと言う人だったっけ、ルイって。
けどまあこれも必要な演技なんだろうなと思いつつ、彼の続きに耳を傾ける。
「まず今回の会議の所領を二人で分け合う!
大和は怪物みたく戦って、僕は一生君の隣に居ながら剣と筆を持つ!
二人でゲームっていう地獄に突き進む!
僕は高校を辞めず、残った時間で日常を過ごす!
これが二つ目だ!」
ルイはその後に「ただ、これを選ぶ場合は大和もゲームに入っていくことに——」なんて、分かりきってることを口にした。




