26-4話:原罪
そうか、これがルイの話。
腹の中では答えはもう決まってるけど、それ以上にまず言いたいことがある。
「はあー……ルイ、さすがに重いよ」
「…………ッッッ」
冗談めかしながらそう言うと、ルイは口の両端を引きながら図星そうな表情を浮かべた。
「第一、それだと私にルイの隣に居る以外の選択肢がないじゃん」
「えっ……ご、ごめん」
けれど、彼は少なくとも目線だけは私の目から離さずいて。それがまた彼らしくって。
それでいて、相手に隣に居てもらわないと自分が本当に死んじゃうのなら、まあそりゃそんだけ重くもなるかと無理やり納得した。
「それでさ、一応聞いとくんだけど。そのゲームが終わったあとの世界に香蓮は、ルイは、町田さんは、みんなはいるの?」
「えっ。そりゃ、居るに決まって————」
——なら、決まりだ。
私はルイの元へ一歩大股で歩み寄り、一瞬抱き寄せたあと。
彼の唇へ口付けをしてその口を塞ぎながら、左手で彼と私の右手にある指輪を外し。
私の右手から外した指輪を彼に、彼の右手から外した指輪を私に着け直して。
それからやっと、息を吸うことができた。
「いいわ、私も一緒にやってやるわ。けれど舐めるのもいい加減にして。私は怪物よ?」
今までは正直その文字列のカッコ良さと、こんなただの女子高生がそんな名前で呼ばれていいのかっていう戸惑いでしか見てなかった。
けれど、ルイのことを守れるのなら怪物だって、神だっていい。
自分の二つ目の名前を考え出した奴に、ここまで来て初めて感謝の言葉を言いたくなった。
「わ、分かった。め、めぐみを試すようなことを言って悪かった」
あっ、今めぐみって言った。やった。
「ふふっ、いいよ」
「けど……だからってこんな指輪交換あんまりだろ」
「選択肢を与えなかったのはルイじゃない。こんぐらい許してよ」
ニヤつきを抑えながら、そうやって到底人には聞かせられないような会話をいくつかしたその直後。
ザッ……
僅かに砂が噛むような音が、その場へと響き渡った。
「誰……!?」
いきなりのことに、流石に驚く。
音がしたのは、階段の方。その後音がしないから、誰かが足音を立てながら登ってきているわけでもない。
けれど、一体誰——。
そう思って覗き込んでみると、そこには意外な、そして出来れば一番聞いてほしくなかった人が居た。
「町田さん!?」
「あちゃー……ばれちゃったか」
そこには暑いところに留まっているせいか、それとも私たちの会話にドン引いてるのか。
滝のように汗を流している町田さんが立っていた。
「えーとね……二人を呼びに来た、んだけど」
話を半端に聞いて引けなくなった、と。
まあそりゃ、目立たないとはいえ誰でも来れる空間だからしょうがないか。
「どこから聞いてたんです?」
「…………ゲームを僕が終わらせるってところからかな」
「重要なとこ全部聞いてるじゃないですか!」
ルイの問いへそう言う町田さんは、眉に力を入れながらどこか他所を見ていて。
なんだか少しだけ悲しそうな、やりきれないような表情をしていた。
「……どうしてここに来たんですか?」
その表情を引き剥がす意味でも問いを一つ投げかけると。
町田さんは急に取り繕いながら「ああ、シャルルって人が呼んでてね。盟約の人に大佐を交えて反省会したいんだってさ」と説明してくれた。
ああ、反省会か。
あの会議って結局最後はルイとリチャードに全部持っていかれて大佐もシャルルさんも空気になってたし……もしかしたら、私たちの裁判もあるかもしれない。
「えっ、僕もこのあとリチャードさんに大和とシャルルさんを連れて一緒に来いって言われてたんですけど」
「なんで私?」
「証明だよ。僕、『責任』とらないと冗談抜きで首掻っ切られて殺されるところだったから」
「ええ……なにそれ」
「けど安心してくれ、リチャードはイエスかノーを聞いてこいって言ってくれたけど、僕はイエスかイエスを聞いた。だから僕の勝ちだ」
いや、そこで競うなし。
そうやって内心ツッコんでいると、その後に一応「なんでアリエノールがあんな無謀な賭けに出たかを探りたいんだってさ」っていう実務的な理由も付け加えてくれた。
けどそうか……私は二つの間から引っ張りダコか。それも、ルイも一緒に。
盟約側につくって決めたからどこかに寝返ったりすることもないけれど、これから忙しくなるな。
他にも組織はいっぱいあるだろうし……けどまあ、私は戦ってルイは筆を取ってくれる。
ぶっちゃけ今回の会議も不安だったから、そこを彼がきちんとやってくれるなら——。
ちょっと晴れやかになった気分で見渡した、遠くに見える畑と林の間のあたりに、何かが見えた。
何百メートルか先、この身体じゃなきゃ動いたかすら分からないような距離。
そう、そこに何か青白いものが——。
いや、まさか。そんなはずは。
だって館は中立で、さっきまで平和に口で会議をしてて——。
「ッ——————なんで霊兵がいるのよ!」
「なんだって!?」 「!?」
「来てっ! 黒鷲!」
声高にそう呼びながら、ついに翼長が一メートルを超え随分と大きくなった黒鷲を飛ばす。
なんで、なんで。館は中立じゃないの。
ていうかあれは誰なの……!?
そう思いながら飛ばした先では確かに黒鷲の視界が林の傍の林道を歩いている霊兵を——。
「……そういうことかっ!」
ルイは叫ぶようにしてそう言うとともに、私と町田さんの手をがっちりと握った。
「めぐみも早く町田さんの手を!」
「な、なんで? 館の外に出たほうが」
半ば混乱しつつも、まずは言うとおりに町田さんの手を取ると。
どこか遠くから、鈍い爆発の音が聞こえてきて——私の目が、館へ向けて山なりに飛んでくる黒い弾を確かにその視界に入れた。
「……始ま——」
————始まるぞ。
ルイが、そう言いかけたタイミングで。
私の視界は、唐突に光の粒子で覆われ————次の瞬間には、どこかも分からない山中の畑のド真ん中へ。
私たち三人が、手を繋いだそのままの状態で飛ばされていた。




