第24-3話:支配
「それは、リヴァが君から生殖能力を奪った理由じゃ」
「……え? 正体も分からないのに、奪った目的は分かるんですか?」
「ああ、分かる。これに関してはもはや、既存の情報だけで判断するならば確定的と言っても過言ではないはずじゃ」
ダヴィンチはそう言うと、モニターを操作して歪んだT字——多少デフォルメされた子宮のイラストを出してくる。
「まず確定させておきたいのは、リヴァが奪ったのは生殖能力じゃ」
「そんなの、今に始まったことじゃないじゃないですか」
「いいや『生殖能力を奪った』ことと『結果として生殖能力が無くなった』ことは分けて考えねばならない」
ダヴィンチは私の方から町田さんの方へ向き直ると、なぜか彼女へその旨を問うた。
「町田軍曹殿。巷で言うセクハラに当たるかもしれないが——生理は重いのと軽いの、どっちが良いかね。職業軍人としての意見を聞きたい」
「それは軽い方が良いに決まって————!」
それを耳にして、目を大きく見開く町田軍曹。
でもそれは不快ゆえの震えから目を見開いたんじゃなく、何かを閃いたかのような顔つきだった。
「もしかして、リヴァは生理そのものの不都合を止めたかったわけじゃないんですか!?」
「いかにも」
ダヴィンチは机の引き出しから指差し棒を取り出すと、子宮とその両隣にある卵巣を指さして何かを解説し始める。
「例えばそうじゃな……お嬢ちゃん、誰かの家に居候をするとなった場合、君ならどのように振る舞う」
「えっ……そりゃまあ、なるべく迷惑掛けないように振る舞いますけど」
「じゃろう? だからお嬢ちゃんの中に巣食うそのリヴァという異能の寄生体も、長い時間をともにする宿主の機嫌を損ねることはあってはならないはずじゃ」
……実際に良い思いをするかは別として、リヴァもただ私の中に居候してるだけなら文句も言わなかったと思う。
でもそうか、居候……寄生体か。勝手に住まわれてると考えると、また別の意味でむかっ腹が立ってくる。
「失礼な話ということを承知の上で言うが、生理による体調のサイクルを抑えたいだけなら、生殖能力を喪失させ宿主の恨みを買う子宮内膜の再生と排卵の停止に踏み切る必要は無いはずじゃ」
そのあとも「子宮収縮をする物質の分泌量を減らすなど、生殖能力を残したまま生理を無害化する方法など私ですら腐るほど思いつく」と続けるダヴィンチ。
「…………だから生殖能力を奪うことが目的、ってわけですか」
けれどそれが分かったところで、今んところ結果は何も変わっていない。
そう思った直後に、ダヴィンチは更に説明を重ねる。
「そして生殖能力そのものを奪う理由。それは、お嬢ちゃんが生きている間に何か成し遂げさせたいことがあるからに他ならんだろう」
「……でも、それなら生殖能力を奪う必要は無くないですか」
「いいや、ある。それは歴史が証明している。古来、中国やビザンツ帝国と呼ばれる国々には皇帝へ仕える召使いとして、生殖能力を去勢により奪われた宦官という人々がおった」
宦官……七月に入る前の最近、テストでやったところだ。
確か官僚が皇帝の嫁に近付いて浮気する、なんてことが誤っても起こらないようにするためだっけ。
「だが、本来の宦官とは違いリヴァは副作用を目的化しておると考えておる」
「副作用を目的化?」
「うむ。家族も次の世代もない宦官たちは、大抵が自らの代で何かを成し遂げんとする。歴史書を単独で書き上げた者、政治的栄誉を追い求める者、汚職や謀略に走る者。とにかく、性以外の全ての欲望を満たそうとした」
司馬遷とか蔡倫を習ったのは覚えてるけど何やった人だっけ。
オタク教師の斎藤の語り口からも、なんだか濃ゆい人たちが多いなってことは分かっていた。
「おそらくだが、そのリヴァという存在にとって君が子供を産む、生理で動けなくなる。そういった時間は全て無駄なんじゃろう。そして今年四月の干渉の際、君がリヴァから要求されたこととすり合わせるに、その目的は——」
ダヴィンチは、それを告げることを僅かにためらったあと。私の目をはっきりと見ながら、その目的を口にした。
「大和めぐみくん。君の持てる文字通りの「全て」を、ゲームに集中させるために他ならんじゃろう」




