↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
106/128

第22-4話:選択

「だって、そりゃそうだろ。僕だって男だ。手握られて、いきなり告白されて……そのままキスまで」


「…………」


 彼が望んでいたかってところばっかに頭が行きすぎて、改めて自分がやったことを見つめ直すと……勢いと衝動に乗せられ過ぎたって、自分でも思う。

「自分でやっておいて分かんなかったなんて言わせないぞ」って揶揄うルイを見て、どこからか安堵が漏れ出る。


「こういう言い方するのは嫌かも知れないけど……気を落としてる女の子を励ましに行ったら()()()()()になって……でも、キスしてる間に何かおかしいって気付いたんだ」


「気付いた……って?」

 

「大和の目に。虚ろで、何かに突き動かされてるみたいで……僕のことを、見てるようで見てなかった」


 さっきまで真っ赤だった手首を、右手で掴み直すルイ。

 萎縮する心臓。それにつられるように、小さくなった胃袋が吐き気を促してくる。


「痛いのも、押し倒されたのも怖かった。けど大和が何を考えてるのか、なんでいきなりこんな事をし始めたのか、なんでそんな目をしてるのか。そう思うだけで、興奮も期待もどっかに行って…………」


「……………………」


 私たちの間に流れる、無言の時間。

 また一つレイヤーが重なって立体的になったルイの痛み。

 そこに僅かに混じっていた彼からの優しさを噛み締めようにも、どう呑み込んだら良いのか分からずにいた。


「だから教えてくれ。なんでいきなりあんな事しようと思った? 理由が分からないのが一番怖かったし、今はそれが知りたい」


「……自分が女だって、証明したかったの」


 隠す理由も気力もない。

 ぽろ。ぽろ。と零すように、正直に打ち明けていく。


 俯いたまま、彼の顔は見なかった。

 視界の端で表情に困惑を重ねていく彼を視界の中心に捉えてしまったら、嘘を織り交ぜてしまう気がして。


「身体のこと、正直に言ったらルイが私のことを女だって見てくれない気がして。けれどルイは私の身体には興味を持ってくれて。だから、身体を差し出せば女の子として見てくれる気がして——」


 そう言いかけたところで、突然立ち上がる彼。

 勢いのあまり、ソファが音を立てて揺れる。


「大和は…………! 僕がそんな目線でしか君を測れない男だと思ってたのかっ!」


「……っ! ちがっ!」


「そりゃ違うだろうね。だって大和は、僕のことを見てくれてる。僕の中の誰かが目を覚ましたあとも、引きずり出しあげるって言ってくれるほどにね。けど……」


 彼の震える言葉、彼の目に浮かぶ涙粒、指が白くなるほど握りこまれた手。全身で感情を表現しながら、言葉を一方的に投げつけてくる。


「なんで、僕には許してくれないんだ何が変わっても、僕の手を取るって約束してくれた女の子だってことは変わらないのに! 僕にとっては痛いのよりも…………そっちの方が、辛い!」


 言葉が出ない。

 喉がぐっと詰まるあまり、限界を迎えた身体が勝手に呼吸を再開する。


 そうだ。私のことを身体だけで測るような男じゃないって、私の一番深いところを見てくれる人だってことを、心のどこかでは分かってたはずなのに。

 未来を、身体の一部を、何よりも選択を失って、自暴自棄になって。彼がそんな男かもしれないって勝手に不安になって。


 その癖して、私だけが彼に一方的に手を差し伸べたまま彼の気持ちを突き放してしていた。

 彼の中の誰かが目を覚ましたら、私は本当に手を差し伸べようと思っているのに、彼がそれを一方的に嘘だって、そんなわけないって言い放ったら。

 私は……それこそ立ち直れなくなってしまうかもしれない。


「ごめんね…………ルイ」


 心の底から絞り出したその一言。

 香蓮が言うには私の謝罪は軽い。このごめんがどれぐらいの重さを持っているのか、自分でも分からない。

 でも、今はこのごめんなさいが、彼に通じることをただ信じた。



「…………京都だ。会議が行われる知恵の館には医学科もある。異能医学の唯一にして第一の機関、そこなら何か分かるかもしれない」


 ……また、病院か。

 異能の医学って言っても、ルイすら知らないあいつのことを解き明かせる気がしない。

 また肩透かしで終わらないか、今からでも不安になる。

 

 そのあと「分かった」とだけ言って、しばらく口を開けなかった私を見かねてか。

 ルイは今度はゆっくりと立ち上がると、ビデオケースがところ狭しと並べられた棚の方へと歩み寄っていく。


 

「課題やろうって話だったけど、やっぱり今日は遊ぼう。前言ってたタイムトラベルの映画はどこに…………って、ほんとにすごい数だな。一緒に観たいんだけど、いいかな?」


 振り返った顔にあったルイの憑き物は、いつの間にかすっきりと無くなっていた。

 彼が私を誘う言葉もどこかわざとらしくて、励まそうとしてくれているのが分かって……。

 それでルイときちんと話し始めてから、初めて口角を上げることが出来た。


 そのあとルイが何の映画を観ていたかは、ソファの上に居続けたのに覚えてない。

 多分、私が昔紹介した映画を三本か四本ぐらい観ていたと思う。


 でもその中でも、確かに覚えていたことがいくつかあって。

 それは私がソファへと垂れ提げていた右手を、彼が小さな手で握ってくれたこと。

 今度はそれを、私の方からも優しく握り返したこと。

 

 そして————映画の中でも、横にいる私でも無い、遠い遠い向こうの何かを。

 ただただ般若のような瞳で睨み続けるルイの表情を、脳に焼き付くほどくっきりと覚えていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
analyze
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。