第59話:床が綺麗すぎて精霊が激突してくるので、衝突防止アロマステッカーを作った件
弟子入りした調香師たちが、俺の「雑巾絞り理論」を忠実に守り、聖域の広間を磨き上げた翌日のこと。
屋敷のあちこちで、――ゴンッ! バサバサッ! という不穏な衝撃音が響き渡った。
「……いたたた。……空だと思ったのに、なんでこんなに硬いのよぅ」
床に目を向けると、そこには目を回した『鳥の精霊・ピピ』たちが次々と墜落していた。
「……ゼクス様、大変ですわ! 床の反射率が100%を超えたせいで、空を飛んでいる精霊たちがここを『湖』か『開けた空』だと勘違いして、猛スピードでダイブしてきています!」
巫女サクヤが慌てて精霊たちを介抱するが、後から後から精霊たちが降ってくる。
アルテミス様も「これじゃ、うっかり歩くこともできないわ。足元に空が広がっているみたいで、平衡感覚がおかしくなる」と、壁に手をついて困惑している。
「……磨きすぎましたね。透明度と反射率を追求しすぎた弊害です。……よし、弟子たち! お掃除の仕上げは『視覚』だけじゃないぞ! 『嗅覚』によるゾーニングを教えよう!」
俺は急遽、調香室に籠もった。
今回調合したのは、鳥の精霊たちが本能的に「ここは通り抜けられない障壁だ」と認識する、微かな『オレンジ・バリアの香り』。
これを特殊な粘着性のあるワックスに練り込み、透明な鳥の形をしたステッカー状に成形した。
「これを床の四隅と中央に貼るんだ。名付けて、『神域の防鳥アロマステッカー』!」
俺がそのステッカーを床に貼ると、不思議なことが起きた。
人間に見えるのはただの透明なシールだが、精霊たちの目には「そこから心地よい拒絶の香り」が放たれているように見えるらしい。
「ピピッ!? ……こっち、なんか美味しいけど通れない匂いがするピ!」
激突寸前だった精霊たちが、ステッカーの香りを察知して鮮やかに急旋回。
屋敷の安全性は確保され、さらにステッカーから放たれる微かな柑橘系の香りが、磨き上げられた床の清涼感を一段と引き立てた。
「……さすがゼクス殿。汚れを落とし、光を制御し、今度は香りだけで交通整理までこなすとは……。調香師の域を完全に超えておりますな」
弟子たちが手帳に猛烈な勢いでメモを取る。
こうして聖域は、世界一綺麗で、かつ世界一「空飛ぶ精霊に優しい」場所へと進化したのだった。
お読みいただきありがとうございます!
「綺麗すぎると危ない」という贅沢な悩みを、アロマで解決しました。
最近のゼクスは、もはや「空間デザイナー」の風格すら漂わせていますね(笑)。
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