第57話:元勇者の放つ『悟りの異臭』がヤバすぎるので、調香師の本気で究極の消臭アロマを作った件
トイレ掃除の果てに悟りを開いたカイル。だが、彼が放つのは神々しい後光だけではなかった。
長期間トイレに籠もりきり、かつ「素手」で不浄に触れ続けた結果、彼の体からは『悟りの残り香(ぶっちゃけアンモニア臭)』が漂い始めていたのだ。
「……カイル、悪い。光ってるのはいいんだけど、……正直、臭い」
「なっ!? ゼクス殿、これは不浄を焼き尽くした際に生じる『魂の排気ガス』……聖なる香りですよ!」
「……いいえ、ただの悪臭ですわ。私の鏡に映る貴方の姿が、臭いのせいで歪んで見えますもの」
カガミが鼻をつまんで鏡の中に逃げ込み、畳で寝ていた魔王たちも「鼻が曲がる!」と悶絶している。
このままでは聖域のブランドイメージが崩壊する。俺は決意し、久々に「調香師」としての道具一式を取り出した。
「……忘れていました。俺の本来の力は、磨くことじゃなく、『香りで環境を整える』ことだった。……見せてあげますよ、調香師の真髄を!」
俺は『神域の蒸留器』に、サンソル島の輝く真珠粉、天界の清らかな雫、そしてカミツ領の神域イグサの精油を投入。そこに自身の魔力を注ぎ込み、原子レベルで香りの分子を組み替えていく。
「調香術・奥義――『聖域の吐息』!」
完成した液体を霧状にして散布した瞬間。
屋敷中を支配していたトイレの異臭が、まるで陽光に照らされた朝露のように消えていく。それどころか、香りを吸い込んだ一同の表情がみるみるうちに穏やかになっていった。
「……あぁ。この香り、ただの消臭じゃないわ。……体中の細胞が『除菌』され、心が洗われていくような……」
アルテミス様がうっとりと目を閉じ、魔王サタンは「……戦うのが馬鹿らしくなるな。魔界に帰って、普通に洗濯でもするか」と、闘争本能まで浄化されている。
「……なっ、私の悟りの香りが、上書きされただと……!?」
「カイル、本当の悟りは臭わないんですよ。……ほら、これをつけて、まずは普通にシャワーを浴びてきてください」
俺が特製の『除菌アロマ石鹸』を渡すと、カイルは後光を失い、一人の「清潔な青年」に戻って浴室へ消えていった。
こうして、ゼクスは調香師としての名声を(ようやく)取り戻した。
やはり、物理的に磨くだけではなく、「空間の香りを支配する」ことこそが、最強のお掃除公爵への道なのだと再確認したのだった。
お読みいただきありがとうございます!
久々に「調香師」らしい仕事をしたゼクス(笑)。
汚れを落とした後の仕上げは、やっぱり良い香りじゃないと締まりませんね。
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