第56話:トイレを素手で磨き続けて悟りを開いた元勇者が、後光を放ちながら現れた件
魔王も守護龍も、そしてお掃除公爵のヒロインたちまでもが『神域畳』の魔力に溺れ、平和な惰眠を貪っていたその時。
屋敷の廊下の突き当たり――そこにある「共用トイレ」の扉が、凄まじい黄金の光と共に弾け飛んだ。
「……見えた。……見えましたぞ、ゼクス殿ッ!!」
そこから現れたのは、ボロ布のような服を纏いながらも、その全身から神々しいまでの後光を放つ元勇者カイルだった。
彼の右手は、あまりに便器を磨きすぎたせいで白銀に輝き、その瞳にはもはや世俗の迷いなど一切存在しなかった。
「……カ、カイル!? お前、トイレ掃除をしてたんじゃなかったのか? なんだその、最終決戦直前の勇者みたいなオーラは!」
俺が驚いて叫ぶと、カイルは静かにその「光る右手」を空に掲げた。
「……ゼクス殿。私は気づいたのです。道具に頼っているうちは、まだ汚れと『対話』できていないのだと。……素手で便器の裏側に触れた瞬間、私は汚れの『悲しみ』を知り、それを慈しみで包み込む境地……【聖浄覚醒】に達したのです!」
「……何言ってんの、この人」
畳の上で寝ぼけていたアルテミス様が半目で呟くが、カイルの勢いは止まらない。
「見てなさい! これが私の悟り……秘技『不浄消滅・素手・ゴッドフィンガー』!」
カイルが指先で床をシュッとなぞると、畳の隙間にわずかに残っていた微細な塵が、物理法則を無視して光の粒子へと変わり消滅した。
「……なっ!? 汚れを『運ぶ』のではなく『消滅』させただと!? それはもう掃除じゃない、概念改変だ!」
「……師匠、あいつヤバいぞ。俺より魔王っぽい光を出してやがる……」
畳から起き上がった魔王サタンも、カイルの放つ「過剰な清潔感」に気圧されて一歩退く。
カイルはそのまま、後光を撒き散らしながら屋敷中を素手で撫で回し、あらゆる不浄を消し去っていく「歩く除菌装置」と化してしまった。
「……ゼクス様。……あの元勇者、少しだけ不気味ですわ。……私の鏡でも、彼の『清潔度』が測定不能になっています」
カガミが困惑する中、俺は確信した。
……カイルは、俺が目指していた「掃除の楽しさ」を通り越し、何か取り返しのつかない「悟りの暗黒面(?)」に落ちてしまったのだと。
こうして聖域は、畳による「怠惰」と、カイルによる「過剰な光」が入り混じる、カオスな空間へと変貌していくのだった。
お読みいただきありがとうございます!
かつてのライバル(?)カイルが、まさかの「トイレ掃除」で覚醒してしまいました(笑)。
素手で磨くという禁断の修行……皆様は決して真似しないでくださいね。
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