第55話:将軍様から貰った『神域畳』が快適すぎて、魔王も龍もダメになった件
和風の国・カミツ領から帰還した俺は、さっそく将軍様から頂いた『神域畳』を聖域の屋敷の一室に敷き詰めた。
イグサの香りが部屋いっぱいに広がり、歩くだけで足裏が喜ぶような絶妙な弾力。まさに職人技の結晶だ。
「……ほう。これが東の国の床材か。どれ、少しだけ試してやろう」
真っ先に部屋に入ってきたのは魔王サタンだった。彼は威厳たっぷりに畳の真ん中に座ったが……五秒後には、ごろりと横になった。
「……っ!? な、なんだこのフィット感は。背骨のラインに沿って、畳が俺を優しく抱きしめてくるようだ……。おい、師匠……魔界への帰還、来週に延期していいか?」
「陛下!? 魔王としての威厳を畳に吸い取られてますよ!」
さらに、俺の肩に乗っていたミニ龍のシルヴァニールも、ふらふらと畳の上に降り立つと、腹を見せて「キュ〜……」と喉を鳴らし始めた。
「……主よ。我はもう、世界の守護などどうでも良くなった。我は今日から、この畳の隙間に住まう『隙間龍』になる……」
「伝説の守護龍がニート宣言しないでください!」
まさに阿鼻叫喚……ならぬ、阿鼻安眠。
あまりの居心地の良さに、アルテミス様までが「ちょっとだけ、膝枕の練習を……」と畳に突っ伏してスヤスヤと寝息を立て始め、エルナは「聖女として、この畳を聖遺物に指定すべきですわ……」と恍惚の表情で床を撫で回している。
「……ゼクス様、これではお掃除が進みません。……皆さんを吸い込むこの畳、私が『鏡』の力で強制排除しましょうか?」
カガミが鏡を構えるが、彼女もまた畳の香りに誘われ、いつの間にか正座のまま動かなくなっている。
「……ダメだ。みんな畳の魔力にやられてる。……あ、でも待てよ」
俺はふと思いついた。
これだけ皆が動かないのなら、この隙に「普段は動いていて磨けない場所」を徹底的に掃除できるのではないか?
「魔王さんの角の裏、龍さんの尻尾の付け根……よし、今がチャンスだ!」
俺は寝ぼけて「あへぇ……」と声を漏らす魔王や龍を、巨大なコンパウンドとブラシで一心不乱に磨き上げた。
結局、その日はお祝いパーティーどころか、聖域の全住人を「畳の上でピカピカに研磨する」という、シュールな大掃除大会になったのだった。
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神域畳、恐るべし。最強の魔王や龍すらも無力化してしまうとは……。
でも、その隙に徹底的に磨き上げるゼクスの執念も相当なものです(笑)。
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