第47話:天界の床が滑りすぎて神様たちが転んでいるらしいので、滑り止めを塗りに行った件
――翌朝。
四人のヒロインに四方から抱きつかれ、関節がバキバキになった状態で目覚めた俺の前に、再び空が割れて女神アクアエルが姿を現した。
「ゼクス様ぁぁぁ! 助けて! 天界が大変なことになってるの!」
「……今度は何ですか? また雲が汚れました?」
俺が這い出しながら尋ねると、女神は涙目で首を横に振った。
「違うの! 前回、ゼクス様が洗ってくれた雲から降った『聖なる雨』で天界の神殿を掃除したら、床がピカピカになりすぎて……! 神様たちがツルツル滑って、あちこちで腰を抜かしたり、頭を打って記憶喪失になったりしてるのよ!」
なんでも、主神ゼウス級の偉い神様までが、廊下で豪快にスライディングを決めて、そのまま天界の縁から下界へ落ちそうになったらしい。
「……なるほど。磨きすぎも考えものですね。分かりました、『神域の防滑コーティング』を施しましょう」
天界に足を踏み入れると、そこは地獄(ある意味天国)だった。
鏡のように磨かれた大理石の床。あまりの滑らかさに、歩こうとした天使たちが生まれたての小鹿のように足を震わせ、次々と転倒している。
「……ゼクス。これはひどいわね。摩擦係数が完全にゼロだわ」
同行したアルテミス様が、剣を杖代わりにしてようやく立っている。
「任せてください。……くらえ、新作『シュリンプ・グリップ・ワックス』!」
俺は『太陽の黄金海老』の殻から抽出した成分を微細な突起状に再構成し、透明なコーティング剤として噴霧した。
このワックスは、見た目の輝きを一切損なわず、踏んだ時だけ「キュッ」と止まる究極のグリップ力を発揮する。
「……よし、これで大丈夫です。走ってみてください」
半信半疑で歩き出した女神アクアエルだったが、一歩踏みしめるごとに確かな手応えを感じ、パッと顔を輝かせた。
「すごい! 全然滑らないわ! しかも、踏むたびに『癒やしの足裏マッサージ』を受けているような心地よさ……! これなら全速力で神殿を駆け抜けられるわ!」
女神が嬉々として走り回ると、床からは「キュッキュッ」と小気味良い音が響き、天界に活気が戻っていった。
「……ゼクス様。あなたは汚れを落とすだけでなく、神々の足元まで救ってしまうのですね。……やはり、私の夫に相応しいお方……(じわっ)」
背後でエルナが感動して涙ぐんでいるが、俺はそれどころではなかった。
転んで怪我をした神様たちの治療(という名の汚れ落とし)もセットで頼まれ、結局またしても休みなしで天界中を掃除して回る羽目になったからだ。
「……お掃除公爵の休日は、いつになったら来るんでしょうね」
俺は、天界の主神からお礼に貰った『黄金の滑り止めマット』を抱え、遠い目をして呟くのだった。
お読みいただきありがとうございます!
「綺麗すぎることの不便さ」を、ゼクス流の技術で解決した回でした。
天界の神様たちの間でも、ゼクスの「グリップ力」は伝説として語り継がれることでしょう(笑)。
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