第39話:ファンレターの中に元勇者からの『トイレ掃除で雇ってくれ』という履歴書が混ざっていた件
聖域が完成し、伝説の守護龍シルヴァニールが肩に乗るようになってから数日。
俺の屋敷には、世界中から「お掃除の相談」や「感謝の手紙」が山のように届くようになっていた。
「……ゼクス、今日もすごい量ね。これ全部、貴公へのラブレターかしら?」
アルテミス様が少しだけ嫉妬深そうに手紙の山を眺める。俺は「いや、半分は『頑固な油汚れの落とし方』の質問ですよ」と苦笑いしながら、一通一通目を通していた。
その時、束の中に一際異彩を放つ、真っ白すぎて逆に目立つ封筒を見つけた。
「……ん? なんだこれ。……履歴書?」
中から出てきたのは、震える字で丁寧に書かれた、一枚の履歴書だった。
『氏名:カイル(元・勇者)
希望職種:トイレ掃除、下水管理、またはゴミ出し
自己PR:以前は不潔の限りを尽くしましたが、ゼクス様の結界に除菌された際、私の魂まで漂白されました。今は一粒の埃も許せません。どうか、貴殿の聖域の末端で、一生かけて便器を磨かせてください』
「……ぶっ!?」
横で紅茶を飲んでいた魔王サタンが、派手に吹き出した。
「カカカ! あのツルツルに漂白された小僧か! よっぽど師匠の除菌がショックだったのだな。……というか、勇者がトイレ掃除を志願するとは、前代未聞だぞ!」
「……ゼクス様。これは罠かもしれませんわ。トイレ掃除に見せかけて、あなたの石鹸の配合を盗む気かも……」
エルナが警戒するが、履歴書に同封されていた現在の写真には、頭に「清潔一番」と書かれたハチマキを巻き、狂気を感じるほど澄んだ瞳でデッキブラシを抱きしめるカイルの姿があった。
「……これ、完全に『お掃除教』に目覚めてますね。……でも、断ります」
俺は迷わず、不採用のスタンプ(世界樹の香りがするもの)を押した。
「えっ、雇わないの? 面白そうなのに」
リリスが不思議そうに首を傾げる。
「彼はまだ、掃除の『真理』に達していません。掃除は贖罪のためにやるものじゃなく、世界を愛するためにやるものですから。……それに、うちのトイレは『全自動・自己浄化機能』が付いてるので、掃除する場所がないんです」
俺がそう言うと、窓の外で待機していたらしいカイル(※ピカピカに白い服を着ている)が、「そ、そんな……! 私の磨く場所がないなんてぇぇぇ!」と叫びながら、聖域の結界の周りの雑草を泣きながら抜き始めた。
「……放っておきましょう。ああして街を綺麗にしていれば、いつか彼も本当の清潔に辿り着くでしょうし」
かつての宿敵が、今や「自発的な街の清掃員」へと進化した姿を眺めながら、俺は次のファンレターの封を切るのだった。
お読みいただきありがとうございます!
勇者カイル、まさかの「お掃除マニア」へと更生(?)を遂げました。
執着の方向性が変わっただけで、相変わらず極端な男ですね(笑)。
楽しんでいただけたら、ページ下部の【☆☆☆☆☆】やブックマークで応援いただけると執筆の励みになります!




