第36話:魔王が勝手に俺のグッズを魔界で売り出し、著作権侵害で訴えそうになった件
聖域の平和な朝、俺は一本の親書を受け取った。差出人は魔界の通商連合。
そこには信じられない内容が記されていた。
『現在、魔界にて「聖域の主・ゼクス様公認:全自動・魂まで洗う洗剤」が爆発的ヒット中。つきましては増産を……』
「……えっ、公認? 俺、そんなの出してませんけど」
嫌な予感がして、俺はリリスとアルテミス様を連れて魔界のマーケットへと急行した。
そこには、俺の顔がデカデカとプリントされた、禍々しくも清潔感のあるボトルが山積みにされていた。
「さあ買った買った! これを一口飲めば……いや、一口使えば、どんな呪いも一撃で除菌! ゼクス師匠の直筆サイン(のコピー)入りだぞ!」
そこには、法被を着てメガホンを握り、ノリノリで実演販売をする魔王サタンの姿があった。
「……お父様。……何をやっているの、そんなところで」
「おお、リリス! ゼクス殿! 見てくれ、この売れ行きを! 魔界の住人がみんなツヤツヤだ! これぞ『クリーン・魔界・プロジェクト』の第一弾、その名も【ゼクス様・マジ天使・洗剤】だ!」
魔王が差し出したボトルには、俺が照れながら掃除機を構えている隠し撮り写真が使われていた。しかも、裏面の成分表には「ゼクス殿の愛情(と、勝手に採取した彼の使い古した布の端切れ)」とか書いてある。
「……陛下。これ、完全に著作権と肖像権の侵害ですよ。あと、布の端切れを混ぜるのは衛生的にどうなんですか」
「何を言う! 師匠の使った布は、魔界では『万病に効く聖遺物』扱いなのだぞ! すでに魔界のGDPの三割がこの洗剤で回っておる!」
アルテミス様がこめかみを押さえながら、魔王に詰め寄った。
「……サタン。貴公、いくらなんでもやりすぎよ。ゼクスの名前を勝手に使って、もし変な事故が起きたらどう責任を取るつもりなの?」
「安心しろ! 品質は我が魔王軍の錬金術師が総力を挙げて再現した! ……ただ、少しだけ『破壊衝動』が『掃除衝動』に変換される副作用があってな。今、魔界では血を流す代わりに、みんなで競い合って公共施設の床を磨いておる!」
見渡せば、筋骨隆々のオーガたちが、涙を流しながら「もっと……もっと磨かせてくれぇ!」と道端の石をピカピカにしていた。もはや新手の宗教である。
「……副作用が深刻すぎます。魔王さん、これ以上の無断販売は禁止です。やるならちゃんと『監修』を通してください」
「なっ、……監修だと!? つまり、師匠に直接チェックしてもらえるのか!? それはもう、実質的な共同作業ではないか!」
魔王は「やったぞー!」と叫びながら、その場で洗剤をぶち撒けてダンスを始めた。
結局、俺の『聖域公認ブランド』として正式に契約を結び直すことで、魔界の著作権問題(とお掃除狂騒曲)は一応の解決を見たのだった。
(……でも、あの隠し撮り写真だけは絶対に回収して、シュレッダーにかけよう)
俺は、魔界の空に漂う「石鹸の香り」を嗅ぎながら、商売敵(?)になった弟子の背中を眺めるのだった。
お読みいただきありがとうございます!
魔王様の暴走によって、魔界がかつてないほどクリーンな場所になってしまいました(笑)。
副作用の「掃除衝動」が強すぎて、魔界から争いがなくなる日も近いかもしれません。
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