第34話:元勇者が『俺の不潔を治してくれ!』とゾンビ姿で結界に突っ込んできたが、一瞬で蒸発(除菌)した件
聖域の朝食が魔王の乱入で賑やかに終わった頃。
突如、聖域を覆う『神域の抗菌結界』が、不快な音を立てて振動した。
――ギギギィ、ベチャッ!!
「……何かしら、この世の終わりみたいな音は」
アルテミス様が不快そうに眉をひそめ、俺たちは屋敷の外へ出た。
結界の境界線に、それはいた。
全身からどす黒い粘液を滴らせ、ボロ布のような装備を纏い、顔の判別もつかないほど汚れきった――かつての勇者、カイルだった。
「……ゲホッ、……ゼ、ゼクス……。助けてくれ……。俺の体から……キノコが生えて……止まらないんだ……ッ!」
見れば、カイルの背中や関節からは、見たこともない邪悪な色のキノコが群生し、彼が歩くたびに腐敗した胞子を撒き散らしている。
追放後に不潔な環境で自堕落に過ごした結果、体内に蓄積した呪いの魔力が「カビ」や「菌」と融合し、彼自身が『歩く汚染源』と化してしまったらしい。
「近寄るな、不潔者め。……ゼクス、今すぐ私が斬り捨ててあげるわ。不浄なものが聖域の空気を汚すなんて許せない」
アルテミス様が剣を抜こうとしたが、俺はそれを制した。
「待ってください。……結界に触れるだけで、彼自身が消えてしまいますよ」
俺が言った直後。
カイルが「お前に会えば治るんだろぉぉ!」と叫びながら結界に体当たりした、その瞬間。
――シュバァァァァァッ!!
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!? 熱い! 熱いぞぉぉぉ!」
結界に内蔵された『オート除菌・24時間消臭機能』がフル稼働した。
カイルの体にこびり付いていた数年分の垢、呪いのカビ、そして邪悪な思念が、強力な「浄化の光」によって一気に分解されていく。
「あ、あぁ……。俺の……俺の『勇者の威厳(汚れ)』が消えていく……っ」
光が収まったあと、そこに転がっていたのは、全身の毛が抜け落ち、肌が漂白されたように真っ白になった、ツルツルのガリガリ男だった。
「……あ、あれ? 呪いのキノコが消えた……? 俺、助かったのか……?」
カイルが弱々しく立ち上がろうとしたが、俺は冷ややかに告げた。
「助けたわけじゃありませんよ。結界が勝手に『ゴミを焼却』しただけです。……カイル、今の君にはもう、悪意を持つだけの魔力も、他人に寄生する体力も残っていません。清潔なまま、静かにどこかでやり直すといいですよ」
カイルは自分の真っ白で弱々しい手を見つめ、「……清潔、……清潔すぎて……力が……入らない……」と絶望の声を上げながら、這うようにして去っていった。
「……ふん。ゴミが消毒されただけね。さあゼクス、空気が悪くなったから、新しいアロマを焚いてちょうだい」
アルテミス様に促され、俺は『神域の森林フレーバー』を聖域に広げた。
かつての因縁は、文字通り「塵」となって消え去ったのだった。
お読みいただきありがとうございます!
元勇者カイル、再登場するも結界に「除菌」されるという惨めな結末でした(笑)。
これで本当に邪魔者はいなくなりましたね!
楽しんでいただけたら、ページ下部の【☆☆☆☆☆】やブックマークで応援いただけると執筆の励みになります!




