第30話:国王から『公爵』の位を提示されたが、それより『世界樹の苗床』を作る土地が欲しいと言った件
魔界を浄化した英雄として迎えられた王宮の祝宴。
シャンデリアの輝く広間の中心で、国王陛下が立ち上がり、厳かに口を開いた。
「ゼクス・エドワード男爵よ。貴公の功績は、もはや一国の救世主どころではない。……よって、貴公を最高位である『公爵』に叙し、さらに王都の半分を貴公の領地として割譲しようと思う」
広間にいた貴族たちがどよめく。
平民出身の調香師が、一気に王族に次ぐ地位と富を手にする。歴史上、類を見ない破格の恩賞だ。
アルテミス様は期待に目を輝かせ、エルナは祈るように手を組み、リリスは「……そうなれば、私は公爵夫人の護衛ね」と誇らしげに胸を張る。
だが、俺は静かに首を振った。
「陛下、お言葉ですが……公爵の位も、王都の土地も、俺には荷が重すぎます」
「な、……なんだと!? この恩賞を断るというのか!?」
「はい。地位に縛られては、毎日の『お掃除』や『調合』に支障が出ます。……それよりも、お願いがあります」
俺は一歩前に出た。
「地位はいりません。その代わりに、王都の郊外にある『汚染がひどくて誰も住めない荒地』を俺にください。あそこを浄化して、『世界樹の苗床』を作りたいんです。……世界中の汚れを吸い込み、清浄な空気と薬草を永遠に供給する、聖域を築くために」
「…………」
広間が、静まり返った。
誰もが権力を欲しがるこの場所で、俺が求めたのは「誰も見向きもしないゴミ捨て場」だったのだから。
真っ先に吹き出したのは、屋根から降りてきてこっそり肉を食べていた魔王だった。
「カカカ! さすがは我が師匠だ! 公爵の椅子より、最高品質の土壌を選ぶとは! ……陛下、この男は本物だ。権力などという不純物は、彼には必要ないのだよ」
「……はは、……そうか。地位よりも世界の清浄を願うか。……ゼクス殿、貴公こそが真の『聖人』であったか」
陛下は感極まったように頷き、俺の願いを全面的に聞き入れてくれた。
「よかろう! その荒地を『ゼクス聖域領』と定め、貴公に全権を与える! ……ただし、公爵の位は名誉職として持っておいてくれ。そうでないと、私が後世の歴史家に怒られてしまう!」
こうして、俺は「地位はあるけど自由な、世界最強の庭師(調香師)」としての身分を手に入れた。
「……ゼクス。貴公らしいわね。でも、公爵の屋敷は私が責任を持って、世界一お掃除がしやすい設計にしてあげるわ」
「……私も、苗床の横に私設の教会を建てますわね、ゼクス様」
「……私は、その森に魔族の精鋭を配置して、あなたの昼寝を邪魔する奴を全員排除するわ」
ヒロインたちの愛は、地位が変わっても変わらない――どころか、さらに加速しているようだった。
俺は、明日から始まる「新しい苗床」の土壌改良(お掃除)に思いを馳せ、美味しいノンアルコール・ワインを飲み干すのだった。
お読みいただきありがとうございます!
ついに第30話! ゼクスの「お掃除一筋」な性格が、国王すらも感動させてしまいました。
次回からは、聖域でのスローライフ(と見せかけた、さらなるチート開発)が始まります!
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