第20話:魔王が「娘を返せ」と自ら乗り込んできたが、俺の『ただのウェルカムドリンク』で和解した件
ジャングル化した王宮庭園でヒロイン三人に揉みくちゃにされていた、その時。
王都の上空に、第14話の黒雲をも凌駕する、圧倒的な漆黒の魔圧が渦巻いた。
「……ゼクス、このプレッシャーは……まさか!?」
「お父様……!? そんな、自らここまで来るなんて!」
リリスが顔を強張らせ、空を見上げる。
雲を割り、巨大な玉座に座ったまま降臨したのは、魔界の絶対強者――魔王サタンその人だった。
「……我が愛娘リリスを洗脳し、魔王軍を『お掃除』と称して蹂躙した不届き者はどこのどいつだ! 今すぐ娘を返さねば、この国を地図から消し去ってくれるわ!」
魔王の咆哮一回で、王都の建物がガタガタと震える。
アルテミス様が剣を抜き、エルナが最大級の障壁を展開しようとしたが――。
「あ、すみません。遠くからわざわざ、お疲れ様です。……喉、乾いてませんか?」
俺は、ジャングルの入り口で立ち止まり、手に持っていた特大のピッチャーを差し出した。
中身は、先ほど収穫した『真実の知恵の実』を絞り、世界樹の湧き水で割っただけの、冷え冷えの『特製ウェルカムドリンク(ミント添え)』だ。
「……な、何を言っているのだ貴様は。余は魔王だぞ? 今から貴様を――」
「まあまあ、毒は入ってませんから。リリスさんも大好きなんですよ、これ」
「……リリスが? ……む、確かに美味そうな香りではあるが……。少しだけだぞ。毒見のつもりで飲んでやる」
魔王は玉座から降り、俺からコップを受け取って一気に煽った。
――次の瞬間。
パァァァァァァァッ!!(本日二回目)
魔王の体から、千年分の「魔王としての重圧」と「殺戮衝動」が、キラキラとした光の粒子となって霧散していった。
「……は、……はわわぁぁ……。なんだこれ、……心が、心が洗われるようだ。……俺、本当は戦いなんて嫌いだったんだ。……ただ、魔族のメンツのために、怖そうな顔をしてただけで……」
「お、お父様!? 本音がダダ漏れですわよ!?」
果実の効果により、魔王の「親バカで平和主義」な本性が全開になってしまった。
彼はそのまま俺の横に座り込み、差し出された『神域のジャム』をパンに塗って食べ始めた。
「……美味い。美味すぎるぞ、ゼクス殿。……こんな美味いものがあるなら、侵略なんてしてる暇はないな。……なあ、リリス。お前、良い男を見つけたじゃないか」
「お父様、ようやく分かってくれましたのね? ……ゼクス様、おかわりをお願いしますわ」
数分前まで「世界の終焉」かと思われた光景が、今や「庭園での和やかなピクニック」へと変貌していた。
駆けつけた国王陛下と、パンを頬張る魔王。
人類と魔族のトップ二人が、俺のジャムを巡って「これ、イチゴの酸味が効いてて最高だな!」「でしょう、魔王殿!」と意気投合している。
「……ゼクス。貴公はついに、お茶菓子一つで世界平和を実現してしまったわね」
アルテミス様が呆れたように、けれど心底惚れ直したような目で見つめてくる。
こうして、世界を滅ぼすはずだった聖戦は、俺の「ウェルカムドリンク」によって幕を閉じた――かのように見えたが。
魔王の口から、驚くべき一言が飛び出した。
「……ところでゼクス殿。……実は魔界のさらに奥底に、俺でも手が出せない『腐りきった神の残滓』が封印されてるんだが……。貴殿のそのスプレーで、……ちょっとお掃除してくれないか?」
「……え、魔界の大掃除ですか?」
どうやら俺のスローライフ(無双)は、ついに「神の領域」まで広がってしまいそうだった。
お読みいただきありがとうございます!
魔王すらも餌付けしてしまったゼクス。
物語はいよいよ、魔界の深淵……そして「世界の汚れの根源」を掃除する新章へ突入します!
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