第16話:魔王が「このままでは娘が嫁に行けん」と焦り、魔族の姫を送り込んできた件
魔王城の玉座の間。
そこには、頭を抱えて唸る魔界の支配者――魔王サタンの姿があった。
「……八魔将が掃除用スプレーで消滅し、黒雲が線香で晴らされただと? そんなデタラメな男がこの世にいてたまるか!」
報告を聞くたびに、魔王の心臓はバクバクと脈打つ。
このままでは、自分が討たれる前に、魔界そのものが「お掃除」されて消えてしまうのではないか。
「……いかん。このままでは、我が愛娘のリリスが嫁に行く前に、魔界が更地になってしまう! ……よし、リリスを呼べ。あの男を『毒殺』……いや、『誘惑』して骨抜きにするのだ!」
そうして送り込まれたのが、魔王の娘にして、魔族最強の暗殺術を誇るリリスだった。
――数日後、王都のゼクス男爵邸。
「……ふん。ここが、お父様を震え上がらせている男の住処ね」
漆黒のドレスに身を包み、鋭い角と尻尾を持つ絶世の美女――リリスが、屋根裏から俺の部屋へと侵入した。
彼女の指先には、一滴で一国を滅ぼすという『魔界の猛毒』が塗られている。
「寝首をかいてあげるわ。……さあ、死になさ――」
リリスが俺のベッドに飛びかかろうとした、その瞬間。
「――ふわぁ、よく寝た。……おや、そこにいるのは……新しいメイドさんかな?」
「なっ……!? 私の気配を完璧に殺していたはずなのに、なぜ気づかれたの!?」
「あ、いや。部屋に『不純な魔力の匂い』がしたから。……それより君、顔色が悪いですよ? 魔界の毒素が体に溜まってるんじゃないかな」
俺は寝起きのまま、枕元に置いてあった『超高濃度・ハーブ入りお白湯』を差し出した。
それは、世界樹の雫を数滴混ぜた、究極のデトックス飲料だ。
「な、……毒殺しようとしている私に、飲み物を差し出すなんて……。いいわ、これを飲んで油断した隙に殺して――」
リリスがヤケクソ気味にその白湯を一気に飲み干した。
――瞬間。
パァァァァァァァッ!!
彼女の体から、ドス黒い魔気が凄まじい勢いで浄化され、真っ白な光が溢れ出した。
「なっ……!? 体が、軽い……!? ずっと胸の奥に支えていた、魔族特有の『破壊衝動』が消えていく……。えっ、何これ、すごく……清々しい気持ち……」
「あ、やっぱり効きましたね。……その角も、ちょっと汚れが目立つから、今度『角専用のワックス』作ってあげますよ」
「わ、ワックス……!? ……お父様、ごめんなさい。私、この男を殺せそうにありません……」
リリスの瞳から毒気が抜け、とろんとした「懐きモード」へと変わっていく。
最強の刺客は、俺の淹れた一杯の白湯によって、一瞬で「ただの可愛い居候候補」へと浄化されてしまった。
「ゼクス様……。私、もっと……そのお白湯、おかわりいただけますか?」
魔族の姫が、俺の服の裾を控えめに掴んで上目遣いで訴える。
……どうやら、俺のハーレム(兼・実験台)に、新しいメンバーが加わることになりそうだ。
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