第14話:魔王軍が王都を『絶望の黒雲』で包んだが、俺が『超巨大アロマ』を焚いたら浄化(物理)された件
禁書庫で世界の真実を知った直後、王都の空が突如として漆黒に染まった。
それは魔王軍が放った、数万の魔物と呪毒を孕んだ『終焉の黒雲』。
「ははは! 逃げ場はないぞ、人間共よ! この雲に触れた者は肉を腐らせ、魂を汚染されて死に絶えるのだ!」
空に響き渡るのは、八魔将の生き残りたちの哄笑。
王都の魔導師たちが必死に防御結界を張るが、どす黒い霧に触れたそばから結界がひび割れていく。
「……ゼクス、これは不味いわ。近衛騎士団でも、あの霧の中では戦えない……」
「私の浄化魔法でも、これほどの規模は……っ!」
アルテミス様とエルナが顔を強張らせる。
王都全体がパニックに陥る中、俺は工房の庭にある「あるもの」に目を向けた。
「……ふむ。ちょうどいいや。昨夜、庭の掃除のついでに作った『超特大・虫除け線香(世界樹の薪仕立て)』を試してみましょう」
「……線香? ゼクス、今この状況で何を……?」
俺は、高さ五メートルほどもある「巨大な木の柱」を広場の中央に立てた。
それは世界樹の枯れ枝を芯にし、神域のハーブと魔力の結晶を練り込んだ特製の芳香棒だ。
「火をつけて……。よし、扇風魔法で一気に広げます!」
俺が指を鳴らした瞬間、巨大な線香から**「透き通るような白銀の煙」**が爆発的に噴き出した。
その煙は、甘く清々しい香りを漂わせながら、空を覆う黒雲へと真っ直ぐに突き進んでいく。
――キィィィィィィン!!
白銀の煙が黒雲に触れた瞬間、絶望の闇がまるで洗剤を垂らした油汚れのように、みるみるうちに分解されていく。
「な、……なにごとだ!? 我が『終焉の黒雲』が、……消える!? それどころか、この良い匂いを嗅いだ魔物たちが……昇天していくぞぉぉ!?」
空に浮かんでいた魔物たちが、苦しむどころか「ああ、いい匂いだ……」と言わんばかりの恍惚とした表情で、光の粒子となって消えていく。
浄化(物理)。
もはや攻撃というより、強制的な魂の洗濯だった。
わずか数分後。
王都の空には、かつてないほどの快晴と、美しい虹がかかっていた。
「……勝ったの? あの絶望的な軍勢に、……線香一本で?」
アルテミス様が呆然と空を見上げる。
そして、俺の隣に駆け寄り、その逞しい(調合で鍛えた)腕にぎゅっと抱きついた。
「……ゼクス、貴公は本当に……。私の想像を、いつも軽々と超えていくわね」
「ええ……。ゼクス様、今の香りで私の魔力も全快してしまいました。……もう、離したくありませんわ」
右腕に王女の柔らかい感触、左腕には聖女の温もり。
周囲の民衆からも「ゼクス様万歳!」と凄まじい歓声が上がる。
だが、俺は空の彼方に、さらに巨大な『魔力の歪み』を感じていた。
(……今のは、ただの先遣隊か。魔王の本体は、まだ別の場所にいるな)
でも、今はいいか。
俺は両腕のヒロインたちの重みを感じながら、少しだけ鼻の下を伸ばして「次はもっといい香りのやつを作りますね」と笑うのだった。
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