第13話:この世界の『調香師』が不遇だった理由と、千年前の聖戦の真実を知った件
叙爵式の喧騒が落ち着き、俺は王宮の地下にある禁書庫を訪れていた。
アルテミス様と聖女エルナに付き添われ、俺は一冊の古びた魔導書を開く。
「ゼクス、貴公の力がなぜこれほど突出しているのか……その答えが、ここにあるかもしれない」
アルテミス様が指し示したページには、千年前の『第一回聖戦』の記録が記されていた。
かつてこの世界には、魔王の毒を浄化し、大地を癒やす**『世界樹の調香師』**という最高位の聖職が存在したという。
だが、魔王軍はその力を恐れ、徹底的に「調香師」の知識を焚書し、その系統を「ただの草を煮るだけの無能な職業」という認識に書き換えてしまったのだ。
「……つまり、俺たちの家系がずっと不遇だったのは、魔王による情報操作のせいだったのか?」
「ええ。魔王は千年かけて、人類から『最強の回復手段』を奪ったのです。……でも、ゼクス様の家系だけは、その真実を『雑草の見守り役』という形で守り続けてきた……」
エルナが震える声で補足する。
さらに読み進めると、驚愕の事実が判明した。
世界を覆う『魔力』とは、本来は世界樹が発する香気。
それが魔王の毒によって汚染され、今の歪な魔法体系が生まれてしまった。
俺が「ただの雑草」だと思って調合していたものは、実は汚染されていない『原初のマナ』を抽出する作業だったのだ。
「……なるほど。だから俺の作ったポーションを、勇者たちは『苦くて飲めない』と言ったんだ。あいつらは、毒(汚染された魔力)に慣れすぎて、本物の浄化液を拒絶しちゃってたんだな」
「そういうことになりますわね。……今、勇者カイルたちが聖水で体を壊しているのも、不純な魔力を取り込みすぎた結果……自業自得ですわ」
古文書の最後には、予言めいた一文が残されていた。
『世界が再び闇に包まれる時、失われた香りが風に乗る。その者は、一振りの枯れ枝で冥府を払い、一滴の水で死地を楽園に変えるだろう。』
一振りの枯れ枝(調合ナイフ)と、一滴の水(目薬や入浴剤)。
……なんだか、今の俺の状況に似すぎていて笑えない。
「ゼクス、貴公はもう、ただの調香師ではない。世界樹の意志を継ぐ、この世界最後の希望なのだ」
アルテミス様に真っ直ぐ見つめられ、俺は背筋が伸びる思いがした。
と同時に、禁書庫の空気が急激に冷え込む。
魔王軍は気づいたのだ。
千年かけて封じ込めてきた「天敵」が、ついに覚醒したことに。
「……お掃除の規模を、少し広げる必要がありそうですね」
俺は腰の調合ポーチを叩き、静かに決意を固めた。
お読みいただきありがとうございます!
今回は「世界の裏側」の設定回でした。
不遇職には理由があった……という展開、ワクワクしていただけましたか?
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