第10話:魔王軍の刺客が『最強の猛毒』を撒いてきたが、俺の『ただの消臭剤』で無力化された件
勇者カイルが再び捕縛され、王都に平穏が戻ったのも束の間。
俺の新しい工房がある一角に、異様なプレッシャーが漂った。
「くくく……。この国に、神の如き薬師が現れたと聞いたが……。貴様か、ゼクスとかいう小僧は」
工房の屋根の上に、漆黒の翼を持つ男が降り立つ。
魔王軍幹部、八魔将の一人――『毒霧のザハーク』。
彼が指を鳴らすと、周囲にどす黒い紫色の霧が広がり、庭の草木が一瞬で枯れ落ちていく。
「なっ、魔王軍の幹部だと!? ゼクス、下がれ! これは吸っただけで即死する『滅びの瘴気』だ!」
護衛に付いていたアルテミス様が剣を抜くが、霧に触れただけでその白銀の鎧が腐食し始める。
「無駄だ。この瘴気は神の加護すら溶かす。さあ、絶望の中で溶け落ちるがいい!」
「……あの、すみません。そこ、今朝掃除したばかりなんですけど」
俺は、作業台の下から大きなスプレーボトルを取り出した。
中身は、換気のできない地下室の掃除用に作った『強力消臭・除菌スプレー(柑橘系の香り)』だ。
もちろん、材料には庭に生えていた『世界樹の枝(の削りカス)』が入っている。
「……は? 掃除だと? 貴様、死を前にして狂っ――」
「シュッ、シュッ!!」
俺がスプレーを数回噴射した、その瞬間。
――キィィィィィン!!
清涼感あふれるオレンジの香りが広がると同時に、辺りを支配していた禍々しい紫の霧が、まるで見えない壁に押し返されるように消滅した。
それどころか、霧の発生源であるザハークの体までもが、シュワシュワと白い泡を立てて浄化され始めたのだ。
「ぐ、がああああぁぁぁ!? なんだ、この光の飛沫は! 私の魔力が……根源から書き換えられていく……!? 瘴気が、ただの『良い匂いの空気』に……!?」
「え、これ、ただの消臭剤ですよ? ほら、除菌率99.9%ってやつです」
「き、貴様ぁ……! 魔王様が恐れるわけだ……。このようなデタラメな……力……っ!」
ザハークは、最後には「除菌」しきられて、ただの小さなコウモリのような姿にまで弱体化し、そのまま空の彼方へと逃げ去っていった。
「……ゼクス。今のは、魔王軍でも指折りの暗殺者だったはずなのだけれど」
「みたいですね。でも、掃除の邪魔をされるのは困るから。……あ、アルテミス様、鎧のサビもこれで取れますよ? シュッとします?」
「……ええ、お願いするわ。……もう、驚くのにも疲れてきたけれどね」
俺は王女様の鎧を磨きながら、ふと思った。
魔王軍なんて怖い存在だと思っていたけど、意外と身近な「お掃除アイテム」でなんとかなるものなんだな、と。
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