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第15話 国家会議


三十二階層再侵入から一週間。


事態は、ついに国家の正式議題となった。


都内某所、地下会議室。


防衛省、内閣危機管理室、学術魔導研究機関、そして探索者ギルド。


円卓を囲む面々の空気は重い。


正面スクリーンには三十二階層の観測データと、黒衣個体の戦闘映像が映されている。


説明を担当するのは白石総一郎。


「異世界側の干渉は段階的に強化されています。現時点では局地的ですが、拡張性は高い」


「侵略の意思は明確か」


防衛省幹部の問い。


白石は即答しない。


「意思の定義次第です。彼らは“管理”という概念で動いている可能性が高い」


管理。


室内がざわつく。


和泉康介が補足する。


「対象は来生雅也。現場回収員だ」


資料が配られる。


経歴は平凡。


特筆すべき点はない。


それが逆に異様だった。


「彼を隔離すべきではないか」


誰かが言う。


空気が一変する。


和泉は即座に否定する。


「逆だ」


視線が集まる。


「彼を外せば、三十二階層が暴走する可能性がある」


根拠はない。


だが経験が告げている。


国家側は判断を保留。


「監視強化の上、現状維持」


暫定結論。


会議終了後。


廊下で白石が和泉に言う。


「守るつもりですね」


「守る価値がある」


短い答え。


同時刻。


ギルド訓練場。


蒼輪と緋天の合同訓練は続いている。


以前より明らかに密度が高い。


九条烈斗が汗を拭う。


「次は本気で来る」


朝霧直哉が頷く。


「連携をさらに詰める」


篠宮雫音と天城紗夜が術式をすり合わせる。


水と闇。


相反する属性の干渉を最小化する調整。


真田和希が全体支援の持続時間を伸ばす。


個々の成長が、目に見える。


一方、山波大樹は別室で模擬戦をしていた。


相手は大木将司。


元Aランクと現Aランク。


剣が交わる。


山波の動きは鋭い。


だが一瞬、踏み込みが甘い。


大木の刃が首元で止まる。


「迷いがあります」


大木が静かに言う。


山波は息を整える。


「分かってる」


過去の失敗が、まだ足を引く。


だが今回は違う。


守る対象が明確だ。


「もう一回だ」


再び構える。


同じ頃。


松浦かなの配信は、さらに視聴者を増やしていた。


三十二階層問題を継続的に伝える姿勢が評価されている。


「今日のテーマは“管理という概念”です」


彼女は資料を示す。


「異世界側が敵と決めつけるのは簡単です。でも、彼らの論理を知ることも必要です」


コメント欄が荒れる。


擁護と批判。


かなは冷静に返す。


「恐怖だけでは判断できません」


その姿勢が、世論を少しずつ変えていく。


敵はいる。


だがパニックにはならない。


夜。


ギルド屋上。


雅也は街を見下ろしている。


美野里が隣に来る。


「国家会議、どうでしたか」


「監視が増える」


「隔離は?」


「されなかった」


美野里は安堵の息を吐く。


「信じられてますね」


雅也は小さく首を振る。


「違う。利用価値があるだけだ」


冷静な自己評価。


美野里は少し怒る。


「それでも、ここにいるのはあなたの意思です」


沈黙。


その通りだ。


遠くでサイレンが鳴る。


日常。


守るべきもの。


美野里が言う。


「もし、戻れって言われたら」


核心。


雅也は空を見る。


星が少ない。


「戻らない」


即答。


「絶対に?」


「絶対に」


その声に迷いはない。


美野里は微笑む。


「なら、私はここで戦います」


想いは通じている。


だが言葉にしない。


まだ曖昧な距離。


同時刻。


三十二階層。


裂け目の奥。


黒衣が報告を受ける。


対象隔離未実施。


防衛強化確認。


次段階準備。


空間がさらに固定される。


新たな座標が刻まれる。


今度は広域。


単体指名から、世界全体へ。


そして一つの結論が共有される。


管理不能個体。


強制回収計画承認。


微かな振動が、地上の観測機器を揺らす。


和泉の執務室。


警告音が鳴る。


彼はモニターを見る。


波形が変わった。


「……始まるぞ」


誰にともなく呟く。


国家は動く。


ギルドは備える。


探索者は鍛える。


そして一人の男は、まだ名乗らない。


だが中心にいる。


世界が静かに傾き始める。


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