表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/20

第14話 深層再侵


三十二階層再侵入作戦は、極めて限定的に実施されることになった。


参加者は最小限。


蒼輪の盟約から朝霧直哉と篠宮雫音。

緋天の行軍から九条烈斗と天城紗夜。

支援として真田和希。


そして現場回収員、来生雅也。


指揮は地上から和泉康介が執る。


「目的は調査だ。討伐ではない」


通信越しの声が低く響く。


「異常拡張の有無、裂け目の安定性、黒衣個体の再出現兆候。それだけを確認し、即時撤退」


了解の声が重なる。


三十二階層へ続く転移門が開く。


空気が変わる。


湿度が低い。

温度は一定。

だが、重い。


魔力濃度が明らかに増している。


「前より濃いな」


九条が呟く。


篠宮が手をかざす。


「水精霊の反応が鈍いです。干渉されています」


精霊干渉。


高密度魔力下で起きる現象で、術式の精度を狂わせる。


朝霧が静かに言う。


「隊列維持。来生は中央」


「了解」


雅也は無言で頷く。


守られる位置。


本来、彼が立つ場所ではない。


だが今は従う。


進行は慎重だった。


三十一階層までに存在していた通常型魔物はほとんどいない。


代わりに、壁面に黒い紋様が刻まれている。


「これ、前はなかった」


雫音が触れようとする。


「触るな」


雅也が止める。


紋様は脈打っている。


魔力が流れている証。


「術式だ」


天城紗夜が目を細める。


「封鎖じゃない。転送補助……いえ、座標固定」


座標固定。


空間干渉術式の一種で、特定存在の位置を基準点として固定する機能。


視線が雅也に集まる。


彼は紋様を見つめる。


間違いない。


自分を基準にしている。


「進むぞ」


朝霧の声で再び前進。


裂け目が視界に入る。


前回より広い。


だが暴走していない。


静かに、待っている。


真田が後方支援結界を展開。


九条が槍を構える。


「来るか」


静寂。


数秒。


何も起きない。


和泉の通信が入る。


「異常値安定。黒衣反応なし」


安堵しかけた、その瞬間。


足元の紋様が一斉に発光。


地面が震える。


「上だ!」


雅也が叫ぶ。


裂け目から落ちてきたのは、黒衣ではない。


三体の人型。


だが形が違う。


一体は鎖を纏う。

一体は刃を浮遊させる。

一体は仮面をつけている。


量産型ではない。


役割分担型。


「戦闘準備!」


九条が跳ぶ。


槍が鎖個体へ突き出される。


受け止められる。


刃個体が無数の刃を放つ。


篠宮が水壁を展開。


水と刃が激突し、蒸気が上がる。


天城が闇球を放つ。


仮面個体が指を鳴らす。


空間が歪み、闇球が逸れる。


連携がある。


意志がある。


狙いは――


雅也。


鎖が飛ぶ。


彼を拘束しようとする。


雅也は素手で掴む。


熱い。


異世界の魔力。


九条が叫ぶ。


「一人で受けるな!」


雅也は鎖を引き、鎖個体を前へ引きずる。


朝霧が斬撃。


命中。


だが浅い。


仮面個体が低く響く声を発する。


観測継続。


排除優先度上昇。


頭に直接響く。


他の者には聞こえない。


雅也の胸が軋む。


やはり自分だ。


彼は一歩踏み出す。


「下がれ!」


仲間を押し下げるように。


刃個体が一斉攻撃。


雅也は最低限だけ力を解放する。


拳が空間を裂く。


衝撃波。


刃が弾かれる。


鎖が断たれる。


仮面個体が後退。


評価更新。


危険度上位。


撤退信号。


三体が同時に裂け目へ跳ぶ。


九条が追う。


「待て!」


「追うな!」


雅也が制止。


裂け目が一瞬で縮む。


消える。


静寂。


呼吸だけが響く。


篠宮が膝をつく。


「今の……完全に狙われてましたよね」


否定できない。


朝霧が雅也を見る。


「来生、お前は何を知っている」


真っ直ぐな問い。


雅也は答えない。


答えられない。


その代わりに言う。


「次は数が増える」


全員が理解する。


これは偵察段階。


本侵攻はまだ。


通信が入る。


和泉の声。


「撤退だ。十分すぎる」


転移門へ向かう途中。


山波の声が別回線で入る。


「無事か!」


「ああ」


「映像見た。お前、明らかにおかしいぞ」


苦笑が混じる。


雅也は小さく息を吐く。


「今さらだ」


地上へ戻る。


医療チェック。


怪我は軽微。


だが精神疲労は大きい。


桜子が静かに近づく。


「数が増えましたね」


「ええ」


「対話ではなく、査定ですね」


雅也は頷く。


選別。


値踏み。


敵は冷静だ。


美野里が隣に立つ。


「怖くないですか」


正直な問い。


雅也は少し考える。


「怖い」


即答。


美野里は驚く。


「でも」


雅也は続ける。


「ここにいる方が、向こうよりいい」


その言葉に、嘘はない。


夜。


和泉の執務室。


報告書が積まれている。


「三体同時投入。連携確認済み」


白石が言う。


「本格侵攻まで猶予は少ないでしょう」


和泉は目を閉じる。


若い頃の記憶がよぎる。


深層で見た“あれ”。


封印したはずの記録。


「来るなよ……」


独り言。


だが現実は動いている。


三十二階層。


裂け目の奥。


黒衣が三体の報告を受け取る。


対象確認。


危険度高。


管理不能。


次段階承認。


空間がさらに歪む。


座標が固定される。


中心は一人。


名乗らない勇者。


深層再侵は終わった。


だが戦いは、確実に近づいている。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ