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 無事に学園に到着した後、俺は紙に書かれた地図と部屋番号のお陰で迷う事なく自分の部屋にたどり着く事が出来た。

 寮監に渡された鍵で中に入ると、既に荷物は前の部屋から移動されており、きちんと収納もされていた。


 いちいち片付けをしなくて良いのは有難いが、余りに至せり尽くせりな状況でちょっとびっくりだ。


 となると特にする事も無くなってしまったので、学園長へ無事到着した事といつ頃学園長室へ伺えば良いか確認する旨を手紙にしたためて、寮監に届けて貰うようお願いした。


 返事を待つ間、する事もないので教本をパラパラとめくってみる。


 ルーベンスの記憶を受け取った事で分かったのだが、『コイツ』は余り頭が良くない。

 以前誰かが『馬鹿』と称していたが、揶揄ではなく本当に馬鹿だった。そのくせプライドはやたら高く思い込みも激しいので、皇子の為だと確かに制裁を下す事もあった様だ。


………まあ所詮、大した事はしていないのだが…


そして意外だったのがあの第二皇子に対して、コイツなりに『忠誠心』の様なものを感じていると言う事。

虚弱な自分とは違い、文武両道で何でもそつなくこなしていく第二皇子は、『コイツ』にとって自分がなりたい理想の人物像そのものだった…(らしい)

そういう意味では恋心も抱いているのかもしれない。


……俺から見ればあの皇子はまだまだ未熟だなぁ、と感じてしまうのだが。


にしても、


「はぁ……もっと楽できると思ったんだけどなぁ」


『コイツ』が馬鹿すぎて授業の内容を殆ど覚えていないので、結局俺は一から勉強する羽目になりそうだ。

 ………といっても、昔習ったものはある程度覚えているので、新たに覚える必要があるのは歴史と、近隣諸国の情勢、それと機械学くらいか。…ああ、あとこの身体も鍛えていかないと剣術等々の授業でついて行けなさそうだな。


 実の所、そこが一番の問題かもしれない。


「まあ、…少しづつ鍛えていくしかないか」


 どうせ時間があるのだからと、開いていた教本を閉じ身体を少し動かす事にした。


 結局、予想通りと言うか何というか寮監が呼びに来るまでの間、つい身体を動かす事に熱中してしまい、

 寮監が来た頃には全身汗だくになってしまっていたのでお風呂で汗を流さなければならず、寮監には嫌な顔をされてしまった。







 そんなこんなで、俺は今学園長室の前にいる。

 軽くノックをすると中から入りたまえ、と声が掛かる。


「失礼します」


 一言声を掛けてから中に入ると、部屋の中には俺以外にも先客がいた。


 此処の制服を着ている事から生徒なのだろうと分かるが、何で此処に居るのだろうか?不思議に思っていると、奥に腰掛けていた小太りの男性が、愛想良く俺に話し掛けてきた。


「ああ、よく来たね。一ヶ月の謹慎処分は君にとっては不本意なものだったと思うがよく耐えてくれた」


 多分この人物が学園長なのだろう。


「いえ、噂が簡単に信じられてしまう様な生活態度を取っていた今までの自分にも非があると思いますので、こうなってしまったのも仕方がない事として受け止めたいと思っております」


「いいや、そんな事はない。『アレ』らに対抗するのは大人であっても難しい、それなのに…………君はよく、…よく此処に戻って来てくれた。…本当に、再び君の元気な姿を見る事が出来て…本当に嬉しく思うよ」


 学園長は人の良さそうな見た目そのままに、目を涙で滲ませ良かった良かったと繰り返し、何か辛い事があったら言ってくれとか、進路相談をする時は私に言ってくれだとか…(以下略)


 うんまあ、学園長の人柄が良いのはいいのだが、

 先程からどんどん話が脱線してきてよく分からない感じになってきているのはいただけないな。

 学園長の好物の話なんか誰も聞いてない筈なんだが…


 それをそのまま放置しても良いのだが、それだと一向に話が進まなさそうなので一番疑問に思った事を短刀直入に聞く事にした。


「ご心配をお掛けして申し訳御座いません。私も無事に此処に戻って来れた事、嬉しく思っております。………ところで学園長、こちらの方は…?」


「ああ!すまなかった、まだ彼を紹介をしていなかったね。彼はラファウ・レイニス君といってこの学園内の風紀を担当してくれている子でね、暫く君に付いていて貰うように頼んだんだよ」


 俺はそう言われて初めてしっかりとその人物の顔をまじまじと見た。


 紺色掛かった黒髪にその髪と同色の瞳。

 その瞳に宿る硬く鋭い色は、全ての人を拒絶するかの如く冷淡に揺らめいている。



 ………ん?この顔…どこかで見た様な……



 しかし俺のその疑問が解決する前に学園長の重苦しい声が続く、


「学園内は未だ君にとって厳しい状況のままだ。しかし『アレ』らの事を公に出来ない以上、君をあからさまに庇護する事も出来ない。その点彼ならば学園の風紀を守る、という名目で君に付く事が出来るからね。彼には事情も話してあるので、心強い味方になってくれるだろう。…長い人生の中のほんの数年しかない学園生活だ、出来る限り楽しんでくれればと願っているよ」


「お心遣いありがとう御座います。無事に卒業出来るよう努力したいと思います」


 敢えて楽しむとは言わない。


 その事に気付いているのかいないのか、学園長はうんうんと頷きながらもう一人の男にも声を掛ける。


「レイニス君も彼の事をよく見てあげてくれるかい?」


 学園長にそう問われたレイニスは、


「分かりました」


 と、感情の見えない顔で淡々と答えていた。




 そうして話の終わった俺達二人は一緒に退室する事になったのだが、部屋を出て扉が完全に閉まった途端、レイニスの態度が急変した。


「私は貴方と仲良しごっこをするつもりはありませんので」


 冷淡に見つめながら突然投げつけられた言葉に、俺がびっくりして固まっていると、


「『噂』など関係なく私は貴方が大嫌いです。学院長の命令だから仕方なく従いますが、極力私には近づかないで下さい」


 と更なる言葉がぶつけられた。


「……………」


 ん〜?この感じ…前にも味わった様な………………




 うーむ〜……………………。




 あ。




 そうだ、アイツだ!!



 断罪の時に、俺を押さえつけてた奴だ!







 えぇー……、よりによってコイツかよ〜〜〜




 マジかぁ……






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