銀狼の姫
俺とフィーリアは今盗賊を追いかけて森を進んでいる。
森の名は『グランドの森』
フィーリアの話ではゲィストランブとアスタールの街の間で最も被害がある区間にある森で、魔物の大量発生が頻発する森でもある。
カカサの森と並ぶ広大な森林地帯で森の中心地にはダンジョンがあるのではないかと言う話らしい。まだまだ謎の多い地帯で、誰も踏破したことがない。一種の迷宮ダンジョン扱いで、少し中に入っただけでモンスターのレベルも二桁を越える。
そんな危険な森に何で盗賊何かを追いかけているかと言うと、イチャラブ旅の途中で奴隷商や商人達の商隊とすれ違う際に盗賊に強襲されたのだ。
まぁこっちは見せかけの馬車で何も置いていないので、護るのもフィーリア位なのでとっと撃退した。
問題は商隊の方で雇われている傭兵が盗賊を撃退できずにいた。
傭兵は平均7、8。アスタールの兵士と同じくらいのレベルなのでさほど弱い訳でもないのだが、盗賊達は12前後のレベルをしている。高い者で17レベルとかなり高レベル。森から強襲を掛けてくるだけあって中々の強さだ。
人数で押しきろうとする傭兵に手際の良い盗賊。戦果は目に見えて盗賊にあった。
奴隷の馬車ごとと物資を盗んだ盗賊は直ぐに煙玉を投げ逃走を開始したのだ。
その手際の良さに呆気にとられたほどだだった。
馬車は直ぐに行き先を森の中に変えて姿を消した。マップではまだ確認出来ている範囲内だ。それに森に入ったせいか移動スピードががた落ちだ。
その後俺達の手際を見ていた奴隷商のおっさんにどうにか商品を取り戻せないかと相談を受けた。
謝礼は金貨30枚に取り戻せた商品によって要相談らしい。
おっさん曰くあの盗賊は『赤バンダナ』と言うらしい。全員が赤バンダナをつけてるのでそう言われる様になったらしい。安直だな。
商隊の『赤バンダナ』対策の傭兵達だったが、盗賊の予想以上の強さに傭兵もたぢたぢだった。
初めは俺だけで行くつもりだったがフィーリアがどうしても一緒に行くと言うので二人で森の中を駆けることになった。
フィーリアは魔術士装備だし、使える魔法も精神魔法と火魔法のみ。接近戦は難しい。だが、何があるかがわからないのでとりあえず小型の刃渡り20センチ程の片刃のナイフを護身用に渡す。
森の中を走るのに黒いドレスじゃ走りにくいかとも思ったが、レベル15のステータスはだてではなかった。
スキルの恩寵が無くとも着いてこれている。
まだ盗賊はマップで追跡可能な位置取りなので大丈夫だが、そろそろ森の外への道が怪しいのでアイテムから紙を取り出し、マッピングを開始する。奴隷を取り戻しても外に出れないでは話にならない。
スキル【マッピング:Lv1】を習得した。直ぐにスキルをONにする。同時にメニューに機能が追加される。マップ自体にマッピング機能が追加されたのだ。今一番欲しかった機能だ。
これで歩いた場所は半径15キロずつ勝手にマッピングされる。取り出した紙は直ぐにアイテムストレージに戻す。
「これは足跡だな。そう遠くなさそうだ」
スキル【追跡:Lv1】を習得する。スキルをONにする。すると今まで気づいていなかった痕跡に気づくようになる。感覚が鋭くなった感じすらある。
それにしても奴隷達の抵抗の様子は見られない。途中馬車を見つけたが、争った形跡すら見られずに盗賊の移動スピードと変わらない速度で移動している。
何らかの魔法を使われているか、それとも本人達の意思なのかはわからないが一切抵抗していない。これは少し様子を見る必要があるかもしれない。
「トウカ気づいてる?」
「何をだ?」
「奴隷達一切抵抗してない」
「あぁ。もう少しで追い付くから抵抗していない理由がわかるさ」
フィーリアも奴隷達が一切抵抗していないのに気づいていた様だ。このサイード王国の奴隷は一部を除き、不当な扱いや暴力等を受けない様な法律が施行され、生活も一定の水準が守られるようになっている。これにより奴隷も人権を保有しているし、むしろ貧民暮らしより良い生活が出来る。
それ故に一般奴隷であれば逃げ出す方がかなり少数。逃げ出した奴隷は犯罪奴隷となり、それこそ本当の奴隷のような扱いを受ける。そこにはもう人権はないのだ。
数分後、盗賊達に追い付いた。
盗賊と奴隷達は一人の獣人を囲むように立っている。
「銀狼の獣人」
フィーリアの言った通り囲まれているのは狼耳と狼尻尾の生えた狼の獣人で毛色が銀色。そして何より美人。フィーリアと同等以上の美貌とスタイルの女性だ。
なによりエロい。不謹慎だが、銀狼の女性は奴隷用の服白い布一枚で肌に張り付くように作られている。
あのおっさんの取り戻したかったのはこの獣人か。この容姿ならばいくらで売れるか想像もできない。
それにしてもこの世界は美人が多い。西洋系統の顔の人が多いがちらほらアジア系統の顔の人もいたが、地球より美人が多いのではないだろうか。まぁ世界事情がわからないのでなんとも比較は難しいのだが。
スキル【隠密行動】【気配遮断】を使ってフィーリアごと気配を消して木陰に隠れる。
「ありゃぐるだな」
「そうね。どうやら仲間を奴隷商に紛れ込ませたみたいね」
あの銀狼の獣人になんの秘密があるかはわからないが、奴隷商に仲間を紛れ込ませてまで彼女を拐う大規模な計画を立てるとは余程の事だろう。
彼女の名前はルーラ・バリス・シルバ
レベル25の猛者だ。スキルも獣人らしい近接戦闘よりのスキルを保有している。
それにあの佇まい、強い。
スキルが無くても身に纏う雰囲気だけでわかる。ターク・エスバトスには劣るがかなりできる。
「よぉ久しぶりだな銀狼の姫さん。あんたを貰いに来たぞ」
赤い鎧を着たスキンヘッドの男が盗賊の後ろから出てくる。
「グリン・ディーム。落ちたこの身になんのようだ」
「なぁに前に会った時にどおしてもその体を食いたくてな。食いたくて食いたくて子分を奴隷にまで落とした」
下を出し、涎が垂れ、顔が歪み狂喜に染まる。狂ってる。
周りの手下ども狂喜に染まっている。
「我が身がお主を狂喜に染めたか」
「命を捨てた子分の分もこの場で蹂躙してやるよ姫さん」
「ただでこの身をやりはしないぞ」
「俺も混ぜてくれよ」
木の影から俺だけが姿を表す。
「誰だお前は?」
「お頭、奴が襲撃を邪魔した奴です」
グリンの側にいた子分が小声で耳打ちをしている【集音】スキルのお陰でバッチリ聞こえる。
何があるかわからないので探知スキルはもう全快だ。
「お主、奴隷商の親父に頼まれたのか?この人数だ逃げた方が良いぞ」
銀狼の女性が心配するように声を掛けてくる。他の盗賊とも合流したようで奴隷と盗賊合わせて30人以上。奴隷の格好の奴らはレベル10前後だが、盗賊は平均がレベル15前後になっている。20レベル以上の盗賊も何人かいる。
それにお頭と呼ばれたグリン・ディーム。
こいつは別格だ。レベル45。
アスタール騎士団でもこのレベル帯は数人しかいなかった。
それにめんど臭そうなスキルも持ってる。
スキル【狂気装】
痛覚を麻痺させ、快楽を求めるようになり、身体能力を上昇させる。
常時発動型のスキルだ。このスキルのせいで狂ったか・・・いや、今までのスキル習得状況からして何かしらの経験が必要だ。剣術なら剣の修行だ。ならこいつは元から狂ってる。それがスキルで拍車がかかってる。そのスキルを切る気もないんだろう。
俺のレベルはターク・エスバトスとの戦闘後38まで上がっている。まさか負けても経験値が入るとは思わなかったが、それだけ濃厚な時間を過ごした。不思議だが不思議とは思わない。
俺とグリン・ディームのステータスは差はグリンのスキル有りきでも俺が上だが、魔法が使えずスキルが完全に使いきれていない今、グリンとの差はほぼ無いと考えた方が良いだろう。
こっちは二人敵は30人以上。まさか一対一で戦う訳でもない。ならしっかり連携が必要だがそれも怪しい。
なら雑魚をまずは倒して経験値にしてやる。グリンと殺るのはそれからじゃないと魔法の使えない俺はかなり不利。身体強化系の魔法があるならばステータス差も無くなるかもしれない。
「いいや。あんたを助けさせてもらうよ。どうせコイツらは俺を逃がしやしないだろ?」
「良い覚悟だ小僧!!お前らやっちまえ!」
グリンの声と同時にこっちに向かって子分達が襲いかかってくる。
殺る。殺さなくても致命傷かあるいは行動不能になる位のダメージを負わせなければ後ろで隠れているフィーリアも危ない。
覚悟を決めると直ぐにスキルが応えてくれる。心が落ち着き、冷静に敵の動きを見れる。刀を右手で抜き放ち、一番近い盗賊を切り払う。
良し!殺れる。
対人の命の奪い合いは2度目だが、ここまでの殺気は無かった。こいつらは確実に俺の命を奪いに来る。奪いに来る敵に情けはいらない。
雪崩れ込む敵の間を抜けて的確に鎧の隙間を撫で斬って行く。その姿は岩の間を流れる小川の様に淀みがなく。滑らかにすり抜けていく。




