第29話
「風呂だよ」
「フロ……?」
オレの答えを聞いてコテンと反対側に首を傾げるミリナ。
ありゃ、木精霊には風呂の習慣はないのか。
「風呂っていうのはな、温めたお湯の中に浸かって1日の汚れを落とし、疲れを癒すことだよ」
「え? お湯に入るの……? 火傷しちゃうよ?」
「ああ、そんなに熱くしないから大丈夫だよ」
怯えた表情を見せるミリナを安心させるように、詳しく説明してやる。
まあ、前世には熱湯風呂というものもあったが、それはあくまでテレビのバラエティの中だけだしな。
ちなみに風呂はオレとリノの魔法で準備をする。リノが自然魔導で水を生み出し、オレが錬魔導で水の温度を変化させてお湯を張るのである。Lvもまだ低いので、ぶっちゃけメチャクチャ大変な作業ではあるのだが、ご褒美が美女3人との混浴なのだ。頑張らないはずが無い。
正直な話、今の所、魔法を覚えて最も良かったと思う点かもしれない。ありがとう、アナスタシアさん。
「気持ちいいの?」
「おお、気持ちいいぞ。こう、身体の芯からポカポカして、疲れが溶け出していく感じだ」
まぁ、風呂の中で始めちゃうと、違った意味で疲れちゃうけどな! 同時に違った意味で気持ちもいいから問題はない。
「じゃあ、ミリナお兄ちゃんと一緒にオフロ入る!」
「ん? まあ別にいいけど……」
オレ、ロリコンじゃないし、親戚の子供を風呂に入れてやるようなもんだしな。
ただ、そうなると今日は風呂でイチャイチャできないという事か……。仕方ない、1日くらい我慢しよう。
「いけません!」
「ダメなの!」
「ご主人様、目を覚ましてください!」
何気なく返事をしたら、突然マイカ達3人が居間に飛び込んできた。
君ら立ち聞きしてたの? つーか、最後のリビーの台詞はどういう意味だよ。
「スグル様、ミリナちゃんは私達がお風呂に入れてさしあげますから」
「は、ハイ……」
妙に威圧感を醸し出しているマイカの宣言に一も二も無く頷くオレ。チキンとか言うな!
だが、ミリナはそんな威圧感などものともせずに反論する。
「ヤダ! お兄ちゃんと一緒に入るもん!」
「ダメです」
にべもなく否定するマイカ。そのまま「いいですか」と諭すように続ける。
「いいですか。人族は基本的に男と女が一緒に風呂に入ってはいけないのです」
……………………そりゃ、まあ一般的にはそうだけどさ。君らがそれ言っても……。
オレが思わず微妙な顔になってしまっているのにも気づかず、ミリナは反論する。
「でも、お兄ちゃんは一緒に入ってもいいって言ったもん! ね? そうだよね、お兄ちゃん」
「ん? まぁ、オレは誰が一緒でも構わないけど」
いきなり振られて咄嗟に頷いてしまう。
あ、と思ったときには既に手遅れだった。
「ならリノも一緒に入るの!」
「ご主人様が間違った道に踏み入らないように、不肖このリビーもご一緒します」
「仕方ありませんね」
…………何がどうしてこうなった。
決して広いとはいえない浴槽の中に5人がギュウギュウ詰めになっていた。
さっきからマイカやリビーの柔らかいのが当たって、身体の一部がエマージェンシーだ。オレの前に座っているミリナに当たらないかと、気がヒヤヒヤしている。
そんなオレの気も知らずに、フニャ~と気持ち良さそうにミリナは目を細めている。
「お兄ちゃんの言ってた通り、お風呂って気持ちいいね」
「あ、ああ、そうだな」
懸命に平静を装って返事をする。口ではそんな事を言っているが、ぶっちゃけ、生殺しである。地獄以外のなにものでもないよ。
オレの返事に違和感を感じたのか、膝の上のミリナが怪訝そうにオレの顔を見上げてくる。
「どうしたのお兄ちゃん?」
「い、いや。お兄ちゃんはどうもしないよ!?」
ヤバイ、さらに声が上擦った。
「…………」
「…………」
「…………」
そしてそうなればなるほど、3人の目が冷たくなる。だから何か誤解してるって。
勘違いしないでよね、ミリナの裸に興奮してるわけじゃないんだから!
…………ヤバイ。頭がおかしくなってきた。
素数でも数えよう。え~と、2、3、5、7、11…………。
「どうしました、スグル様?」
「ブツブツ1人で呟いてるの」
「やはりミリナちゃんの身体が好きなんですか?」
「ブふっ!?」
29までいった所で、リビーのとんでも発言に思考が吹っ飛んだ。
だから言ってるだろ。オレはロリコンではないと!
「お兄ちゃん、ミリナの事嫌いなの?」
「えぁ!? い、いやそうじゃない! ミリナの事は好きだけど――」
「そうなんですか?」
「やっぱりなの……」
「ご主人様はロリコンなんですね……」
そうじゃねー! っていうか、この世界ロリコンって言葉あんの!? まさかナボコフさんもこの世界に転生してたのか!?
「もうあがる!」
「「「「あっ……」」」」
36計逃げるに如かず。
そう判断したオレは浴室から逃げるように退散した。




