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第30話

「ふぅ……」


 風呂場という名の修羅場から逃げ出し、自分の部屋で一息つく。ろくにお湯に浸かることなく出てきてしまったので、気温的には日本の初夏くらいだが、微妙に肌寒い。


 温かいお茶でも飲むか、とキッチンに行きお茶を淹れることにした。

 本音を言えば緑茶が一番好みなのだが、この街では紅茶らしき茶葉しか手に入らなかった。リガウ茶と言うらしいそのお茶を淹れてくつろいでいると、風呂からあがったミリナが顔を見せた。

 アナスタシアさんの腕輪をつけてないので現在は木精霊の姿だ。


 さっき買った寝間着を着ているが、よく見るとボタンを掛け違えている。


「あ~、ホラ。ボタン間違ってるぞ」

「直して」


 トコトコオレのもとまで歩いてくるとバンザイでもするように両手を上げ、ペッタンコの胸を張るミリナ。まんまお子ちゃまである。

 ヤレヤレと思いながらも、その子供っぽい仕草に微笑みながら掛け違えたボタンを直していると――。


「スグル様、先程は申し訳………………」

「ん? マイカか。いいよ気にしてないから――ってどうした? そんな固まって」


 扉の方を見ると、声をかけてきたマイカだけでなく、リノとリビーも呆然とした表情で固まっている。どうしたんだよ、一体。


「ご、ごごごごごご主人様が、ミリナちゃんの服を脱がせてるの……」

「もももはや手遅れと、な、なななななってしまったのでしょうか……」

「落ち着きなさい、リノ、リビー。落ち着いて、まずはギロチンの準備です」


 よしマイカ、お前が落ち着け。

 

「誤解だって。ミリナがボタン掛け違えてたから直してやってただけだよな?」

「うん」


 オレの確認にミリナがちゃんと頷いてくれたので、ひとまずこの場は無罪としてくれたみたいだ。だが、機嫌はあまり治っていないようで、今日はもう寝ると部屋に戻っていってしまった。

 

 思わずため息を零していると、ミリナがオレのカップの中を覗き込んでいた。


「お? ミリナもお茶飲むか?」

「ん」


 短く返事を返してくるミリナにカップを手渡す。

 両手でそれを受け取り、隣に座って、フーフーと息をふきかけてる姿はなんとも微笑ましい。

 コクコクと喉をならしてお茶を半分ほど飲んだ後、ミリナは困惑と不思議さと驚きを掛け合わせたような複雑な顔でオレを見上げた。


「ねぇ、お兄ちゃん。どうして人族は私達木精霊を捕まえるの?」

「…………」


 その質問に思わず言葉を失う。

 そんなオレに構わず、ミリナは話を続けていく。


「最初はね、お兄ちゃんやマイカさん達が特別なのかと思ったの。でも、今日人族の街に来てみて、色んな人族に会ったけど、みんなやさしかった」


 ミリナはアナスタシアさんに貰った腕輪を大事そうに撫でる。アナスタシアさんはミリナが木精霊だと理解した上でそれをプレゼントしてくれた。


 アナスタシアさんだけじゃない。キアラさんはミリナの身を案じて護ろうとしてくれたし(誤解ではあるが……)、服飾店では親切な店員に服の選び方等を色々アドバイスをしてもらったそうだ。


「父様は人族はみんな恐ろしい、私達木精霊や森の民を捕まえたり殺したりする恐ろしい種族だって言ってた。でも、この街の人族はみんな優しかった」


 なのに――。

 なのになんで――。


「…………そうだな」


 たぶんそれは仕方のない事なのかもしれない。

 例えば、人は生きるために他の生物の命をもらって空腹を満たす。

 それが自然の摂理なのだ。だから人の暮らしの上で、木精霊が必要ならば人々は木精霊を狩るだろう。

 

 だが、それは食物連鎖の上に立つものの言い分だ。

 食われるもの、弱者の方からすれば、その言い方はたまったものじゃないだろう。

 

 しかし、だからと言って豚や牛が可哀想だから肉を食べるのをやめましょう、と言われて世界中のみんなが「ハイそうですか」とはならない。


 オレはミリナの疑問に答える言葉を持っていなかった。


「ハイ」


 自分のせいで俯いてしたしまったと、オレを気遣ってか、ミリナが心配そうな顔でお茶を差し出してくれた。苦笑しながらお礼を言ってお茶で乾いた口の中を潤していると、ミリナが次の言葉を発した。


「じゃあ、お兄ちゃん。もう一つ聞いていい?」

「ああ、いいよ」


 さっきみたいな質問がこられても困るが、お兄ちゃんとしての威厳を保つため、顔には出さず笑顔で頷く。そしてもう一口お茶を口に含んだ瞬間――。


「ロリコンってなに?」

「ボフゥォっ!?」

「キャッ!?」


 口から奇声と共にお茶が吹き出した。

 

「ゲッホ、ゴホ!? ハァハァ、…………ミリナ」

「う、うん」


 心配そうにこちらを見つめるミリナ。

 なんだろう、この、親戚の子供に「赤ちゃんってどうやってできるの?」と聞かれた時くらい答えにくい空気は。

 一瞬、「お父さんとお母さんに聞いてみなさい」を発動しようかと思ったが、万が一ウルザリーナさんが意味を知っていた場合、変な誤解を与えるわけにもいかない。


「……大人にナッタらワかルよ」


 結局最後までミリナの質問には答えてあげることができなかった。

前回といい、アホな話ばかりでストーリーの本筋が全然進まなくてすいません。

次回からはちゃんと進めるつもりです。

……たぶん……できれば……そのハズ……。

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