第28話
「あら、坊やじゃない」
ミリナの服を買い、店を出たところで声をかけられた。声の主は魔法の師匠でもあるアナスタシアさんである。
「坊やはまた別の女の子に手を出しているの? そんな事じゃマイカちゃん達が悲しむわよ」
だからなんでみんなそういう穿った見方をするかな……。
マイカ達もウンウン頷くなよ。
「アラ……?」
「なんですか?」
「その子……、ひょっとして木精霊なの?」
!!!!?????
なんでバレた!?
「何を驚いてるのよ。その子にかけてる念魔導、坊やかリノちゃんのものでしょう? 師匠であるあたしが見破れないはずないでしょうに」
考えてみりゃ――というか、考えてみなくても当たり前か。
アナスタシアさんの念魔導のLvは3。格上の相手には見破られてもしょうがない。
幸い、魔法スキルを持っている人はかなり少ないから今までバレてなかったけど、万が一があると怖いな。どうしよう。
「あの、アナスタシアさん――」
「なるほどね。Fランクだった坊やがどうやってあんな量の『木精霊の蜜』を手に入れる事ができたのか、不思議だったけど、その子が関係してるのか」
「ええと、その、まぁ……。それでこの事はあまり他言して欲しくないのですが……」
「え~。どうしよっかなぁ~」
非常に楽しそうに嗜虐的な笑みを浮かべるアナスタシアさん。
アラフォーのくせして、ガキみたいな事を言うなよな。
「今何か失礼な事思わなかった?」
「いえ、トンデモゴザイマセン」
「本当かしら――アラ?」
オレの方に詰め寄ろうとしたアナスタシアさんが、急に立ち止まる。
2人の間に、ミリナがオレを庇うように一生懸命腕を広げて立ちふさがったからだ。
「お兄ちゃんをいじめないで」
「あ、あのねお嬢ちゃん……。あたしは坊やをいじめるつもりじゃないのよ」
「………………本当?」
「本当よ、本当」
「全く、怒る気もからかう気も失せちゃったわ」と苦笑するアナスタシアさん。
「じゃあ、アナスタシアさん。この事は他言無用で」
「ええ、わかったわ。でも、Lv1の坊やがかけた念魔導じゃ、いつ他の魔導師に見破られてもおかしくないわね……」
確かに。一般人には魔導師はほとんどいないが、冒険者や軍の精鋭にはオレより高い魔法スキルを持ったやつがいるのは間違いない。
「しょうがないわね。弟子のためだもの、あたしがなんとかしてあげるわ」
「アナスタシアさん?」
「いいからついて来なさい」
アナスタシアさんに言われるがまま彼女に着いていく。
向かった先はなんと宝石店。
「え? え? いや、オレそんなに金持ってないですよ?」
「大丈夫よ、お金くらいあたしが出すから。坊や達はちょっと待ってなさい」
そう言ってアナスタシアさんは店内に入っていくと、5分もしない内に出てきた。
「ホラ、その子につけてあげなさい」
手渡されたのは中心に宝石のように煌めく鉱石が埋め込まれた腕輪。
「これは?」
「あたしが念魔道を込めておいた魔鉱石の腕輪よ。それをその子につけておけば、坊やの使った念魔導と同じ見た目になれるわ。それに見破られないように工夫もしておいたから、あたしを超えるくらいの魔導師でない限り、魔法がバレる事はないわよ」
「あ、ありがとうございます」
早速、ミリナに説明して腕輪をつけさせる。
「ありがとう、お姉ちゃん」
「ええ、そうよ~。お姉ちゃんに感謝しなさい」
ミリナにお礼を言われる際、お姉ちゃんと呼ばれてご機嫌だったアナスタシアさんと別れて自宅へと戻る。
「ここがお兄ちゃんのお家?」
「そうだよ。とりあえず晩飯にしようか」
「は~い」
「「「わかりました」」」
マイカ達はいつも通り家事を分担して進めていく。オレも食事の支度を手伝おうとしたのだが、どこへいくにもミリナが後ろに引っ付いてくるので、キッチンのスペースが狭くなるからと、食事当番のリノから追い出されてしまった。
「それじゃ、居間で本でも読んでいようか」
「ミリナ、人族の字読めないよ?」
「ああ、オレが読んであげるから大丈夫だ」
資金に余裕ができたので、少し前に買っておいた本を部屋から持ってきて広げると、ミリナがオレの膝の上にチョコンと座った。別に重くはないので構わずに本を読み進める。
内容は遥か昔、この世界に初めて現れた魔王を勇者が倒したエピソードを元にしたベッタベタな冒険譚。
この世界の人族なら子供の頃に誰でも一度は聞いたことがあるらしい。
「ご主人様、お待ちどうなの」
しばらく本を読んでいると、食事の支度が整ったとリノが呼びに来た。
メニューは豚肉を入れた野菜炒めに卵のスープ。ミリナは肉や卵が食べられないらしいので果物を買っておいた。
「お兄ちゃん、お肉っておいしいの?」
「ん~? まあ、オレは好きだけど」
「ミリナも食べてみたい!」
いやいや、無理だろ種族的に。ウルザリーナさんも果物や火を通してない野菜以外は食べられないって言ってたし。
そう説得してみたが、尚も食べたがるミリナに少しだけ野菜炒めの豚肉を食べさせてみると――。
「…………気持ち悪いぃ……」
「だから言ったじゃねーか」
食後。
オレの膝の上でグッタリしているミリナの背中をため息つきながら擦ってやっていた。
「ほら、水飲むか?」
「ううん。それよりお兄ちゃんの魔力吸っていい?」
「ああ? う~ん、この後魔力使うからあんまし吸いすぎるなよ?」
「……何処か行くの?」
日はとっくに落ちて外は真っ暗なのに、と言いたげなミリナの視線。
別にどこかに行く予定はないのだが、最近になってようやく念願かなってやれるようになった事があり、それをやるには結構な量の魔力が必要なのだ。
「何なの、やりたかった事って?」
「ああ、それはな――」
首を傾げるミリナにもったいぶることなく答えを教えてやった。




