第27話
「ふわぁ~、人がいっぱい」
サントラフォードの街に入ると、人の多さにミリナが感嘆のため息をついた。大通りには確かにそれなりの数の人が行き来しているが、そんなに驚くことかね。まぁ、隠れ里にいる木精霊の数は50人(人……でいいのか?)くらいだったから、このくらいでも驚くのかもしれないな。
前世で東京とかの人の多さを知っていると、このくらいの通行人の数ではなんとも感じない。
ちなみに、門ではマイカの言っていた通り、子供の場合は保護者がいるならば鑑定石によるステータスチェックを受ける事なく街に入る事ができた。
その子が問題を起こした場合はその保護者が全責任を負うらしいけどな。
現在、ミリナは見た目5歳くらいの女の子の姿になっている。髪の色が緑だったり、肌の色が若干濃かったりと、木精霊の特徴を所々残してはいるが、普通に可愛らしい女の子に見える。
「とりあえず服からだな」
木精霊の時は木の葉や枝でできた軽鎧のような服装だったが、そんな奇抜な格好で街に入るわけにもいかないので、現時点ではオレの外套で全身を隠している。マイカ達が自分の外套を貸すと言ったが、ミリナがオレのがいいと、譲らなかったのだ。
それから微妙にマイカ達の機嫌が悪い気がするし、早いとこミリナに服を買ってやらないと。
念魔導で見た目を誤魔化してはいるが、それは身体を人間っぽい見た目に変えているだけで服まで変化はさせられないからな。
「え~、ミリナお兄ちゃんの服がいいです!」
「外套は貸しといてやるから、その下に着るものを買いにいくんだよ」
「……プレゼント?」
「うん? ……ああ、そうだな。指輪のお礼だ」
別にそういうつもりではなかったのだが、ミリナがそんな風に聞いてきたので頷いてやると、思いの外喜びだした。
「わ~い。それじゃ、早く行こう」
「コラ、引っ張るな」
繋いでいた手をグイグイ引っ張るミリナに苦笑していると、背後からヒソヒソ声が聞こえてきた。
「……スグル様は幼い娘が趣味なのでしょうか? あんなににやけた顔でミリナちゃんを見つめて……」
「……う~っ。リノ、念魔導で幼女の外見になったほうがいいの?……」
「……わかりません。単に子供好き(ロリコンではなく)という可能性もわずかではありますが残っています……」
なんか酷い事言われてるんだけど! オレ一応主人だよ!? それにリビー、なんで子供好きの可能性がわずかなんだよ! まさしくその通りなだけだよ!
主人としての威厳を取り戻すべく、説教しようと振り返りかけた所で、視界の端に見知った姿が映った。相手もオレに気がついたらしく、こちらに小走りで向かってくる。
「スグル殿、久しぶりだな」
「こんにちは、キアラさん。今日はお休みですか?」
いつも見る騎士の格好ではなく、ゆったりとした過ごしやすそうな服装に身を包んだキアラさんと挨拶を交わす。
「ああ。見ての通りな。もっとも、たまの休みもこうして日用品などの買い物で潰れてしまうのだが」
「それは大変ですね」
「何、市民のためだ。どうってことない」
そこらの男よりも漢らしい事を言うキアラさん。
相変わらずカッコいいな等と、女性に対しては微妙に不適切かもしれない事を思っていると、キアラさんがミリナの姿に目を留めた。
「スグル殿、そちらの子供は?」
「ああ、えっと……知り合いの――「お兄ちゃんのお嫁さんです!」――そうそう自分の嫁で、って違うわ!」
誤魔化そうと言いよどんだ所、かぶせるようにミリナがとんでもない事をのたまった。
「す……スグル殿、その、いくらなんでも幼すぎるのでは……?」
「ち、ちがっ! 誤解です」
だから腰の剣に手を伸ばさないで! 冗談ですよね!?
っていうかなんで休暇なのに佩刀してるんですか!
オレが言い訳をしようと言いつくろっていると、ミリナがさらに爆弾を投下していく。
「え……、ミリナの大切なもの、お兄ちゃんに初めてあげたのに……」
その言い方ちょっと待て!
確かに大切な指輪はもらったけど!
「スグル様……!?」
「本当なの!?」
「いつの間に……!?」
おまけにマイカたちにまでなんかしらん誤解を受けてるし!? つーか君達とはいつも一緒にいるよね!? だからそんな風に誤解するのおかしくね!?
「スグル殿……?」
シュラン、と剣を抜くキアラさんに必死の言い訳を繰り返し、誤解を解くことができたのは20分程が経過してからだった。
「えらい目に遭った……」
キアラさんの誤解をなんとか解いて別れた後、ミリナを含むオレ達5人は以前みんなの服を買った服飾店へと足を運んでいた。
「とりあえずミリナに合う服を適当に見繕っておいてくれるか?」
「わかりました」
マイカ達にミリナを預けてしばらく待つと、可愛らしい服に着替えたミリナが姿を現した。下は皮でできた膝丈くらいまでのスカートで、綿のシャツに緑のベストを重ねている。やっぱり色は緑とか茶色系が好きなんだね。
「え、と……。どうですか?」
「うん、よく似合ってるよ」
上目遣いにモジモジとこちらを見上げてくるミリナに頷いてやると、パァッと満面の笑みを浮かべた。
「……」
「むぅ~」
「やっぱり……幼女が趣味なのでしょうか?」
その後ろで機嫌が微妙に悪い3人娘。だから誤解だって。
「あ~、みんなも好きな服買ってもいいよ。3人とも美人だから着飾って欲しいし」
ご機嫌を取るようにオレがそう言うと、マイカ達はまんざらでもない表情を浮かべて好きな服を探し始めた。
まぁ、『木精霊の蜜』でできた儲けのお陰で資金には余裕があるし、たまにはいいだろう。




