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氷魔法教室の1年間  作者: うぞぞ
1章

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3/10

新学期-3

王立魔法学校の新学期が始まって1週間が経った。

皆が皆、新しい学校生活に慣れ始めた頃合い。


氷魔法教室での授業は、新入生のニーナの想像していたものとは全く違っていた。


「師匠と先輩はどうやって2年間も学校を騙してたんですか」


ニーナが机をぺしぺしと叩きながら言う。

机には山のように積み上げられた羊皮紙の束があった。

その全てが授業の課題として出されたものである。


「騙してるなんて人聞きが悪いな、ちゃんと授業だろ」


シュラインは、やはり山と積まれた課題に目を通している。

窓際の定位置、日当たりの良い特等席だ。

砂糖の入った紅茶を飲むと、文字を追い続けていた脳に糖分が染みわたる。


「これのどこが授業なんですか」


ニーナが顔を上げて訴える。


この教室では、まともに授業は行われていなかった。

教師のロイオンは執務机でなにやら書き物をしている。

生徒のシュラインは1人で黙々と課題を進めている。

教師と生徒の会話がほとんど無いのだ。

新学期から1週間、それが氷魔法教室の日常だった。


「この量の課題を1年分積み上げたら、何もしてないなんて思われないだろ」


シュラインが課題の山を叩きながら答える。

確かに、この課題の量は常軌を逸している。量も質も。

他の教室の生徒が見れば、十分すぎるほど勉強しているように見えるだろう。


「つまり、見せかけってことですよね」


ニーナが不満そうに呟く。


魔法学校の授業には3つの種類がある。

共通授業、選択授業、専任授業。

氷魔法教室はこのうちの専任授業に当たる。


共通授業は他の教室の生徒と一緒に受ける必修の授業。

これはニーナが想像していた通り、教師の話を聞いてノートを取る普通の授業。

選択授業は自分の興味に応じて選ぶ授業。

こちらは実技もあるが、想像していた通りの普通の授業だ。


つまり、氷魔法教室の授業だけがおかしいのだ。


「自由が1番だからね」


ロイオンがにこやかに言う。

あくまで放任主義、生徒の自主性を重んじるという名目だ。


「自由というか、ほとんど放置ですよね」


ニーナの指摘にロイオンは楽しそうに笑うだけだった。


「先輩は変だと思わないんですか」


ニーナがむくれたように言う。


「思うけど、普通が正解って訳でもないからな」


シュラインは手元から目を離さずに答えた。

最初は自分も戸惑った。

だが、この教室の在り方は自分にとって都合が良かった。

魔力が少ない自分は、集団授業よりも自分のペースで進められるこの環境が合っていた。


「先輩はそれでいいんですか」

「俺は魔法使いとして強くなれれば、それでいい」


シュラインは顔を上げてニーナを見る。

そこには不満の色はない、むしろこの方法で良いと物語っていた。


「この教室に入って後悔したか?」


シュラインが唐突に尋ねる。


「いいえ。それは無いです」


ニーナは即答した。


「そうか」


シュラインは短く返事をすると、再び課題に目を落とした。


その横顔を見ながら、ニーナは思う。

この先輩は、きっと誰よりも自由だ。

周りの評価なんて気にせず、自分の信じる魔法だけを追求している。

そこに至るための勉強方法など何でも良いのかもしれない。

普通の方法でも、この教室のように変わった方法でも。


「先輩」

「ん?」

「私、先輩みたいになれるでしょうか」


その質問に、シュラインは顔を上げずに答えた。


「俺みたいになる必要なんてない。」

「でも……」


シュラインは少しだけ口元を緩めた。


「俺の真似なんかするな。お前はお前の方法で魔法を極めればいい」

「……はい!」


ニーナは明るい声で返事をした。


その様子を、ロイオンは紅茶を飲みながら穏やかに見守っていた。


「楽しそうだし、追加の課題でも出そうか?」


ロイオンのその言葉に、二人は同時に顔を上げた。


「「え?」」

「2人とも、文句を言うくらいに余裕があるのかなって」

「普通の授業がしたいって言っただけです!」

「手一杯だって話だったろ!」


生徒2人の抗議の声を聞きながら、ロイオンは楽しそうに笑うのだった。

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