今日から悪魔(ルシファー)第二十章
よろしくお願いします
称号者同士はいまだに戦いを続けている。その戦乱の中でアズリエルと向かい合う鴇矢。
感じる力はサリエルと同等。しかし殺気や敵意はサリエル以上。このアズリエルの解放者もまた長瀬のように辛い過去の持ち主なのかもしれない。それでも、鴇矢はほんの少し前に覚悟を決めたのだ。自分を救ってくれた白河を守る為に今だけは戦うと。
勝てるとは正直思えなかった。
潜在能力ならばルシファーの方が上なのはなんとなく解ってはいても、肝心のルシファーが鴇矢という今まで大した考えも苦労も無く生きてきた人間であることとまだ能力を完全に覚醒させていないことをを差し引けば、鴇矢がアズリエルに勝てる可能性はほとんど無いと言っていい。
「だからって引くわけにもいかねえ」
アズリエルは鴇矢を連れて帰ることを第一目標にしているのであれば即座に殺すという行為に出るとは思えない。ならば確実に敵を倒す為に限界まで魔力を吸収する。ミカエルと戦った時とは比べ物にならないほどの魔力で補った結果ならば例え相手が大天使の解放者であってもダメージくらいは与えられるはず。
何故だか解らないが確信を持って言える。
理由は簡単だ。
このアズリエルという男からはミカエルという女が体中から発していた敵意悪意殺意法力全てにおいて劣っていることが肌で感じるから。
勝てるとは思えない。
だがあの女。ミカエルと比べればそこらの天使の称号者となんら大差ない。
身体を爆散させるか? いやおそらくミカエルと同じ結果になるだろう。今の鴇矢の操る魔力量では起こせる結果には限界がある。
なら全身を……いや学ぶべきだあの戦いから。
こちらの放つ因果の能力以上の法力で防がれれば結果を覆せるということを忘れるな。
何より今の鴇矢には相手を殺すということを心のどこかで躊躇している。
ならばやることは一つ。
まず敵の体力を削ぎ、因果を操る力に対抗するだけの体力を残させなければいい。
敵に接近するのは一瞬だ。移動を邪魔させられることはない。
だが単調に目の前に出て殴るだけではおそらく読まれて反撃に合う。
ならばどうするか。
攻撃魔術など持ち合わせていない。そもそもルシファーは通常の魔術など使えない。
「まてよ」
使えなくてもいい。
原因さえ理解して足りない部分を魔力で補えることで結果を起こせるのであれば通常の魔術だって使えないわけではない。
だがどんな魔術を想像する。
敵に外傷を与える魔術。
今までハッキリとみた異能の力といえば。
「あれしかねえ」
鴇矢は結果を思い浮かべそれに必要な原因をイメージする。
あれを魔力でできた凶器と仮定しそれを造る為に必要なのは単純に魔力。
「どうやら少しお仕置きが必要みたいだな。こちらとしては今までの失態を貴様の捕縛で見逃すという判断で助かっているのだあまり手間をかけさせるな。それに、」
アズリエルは眉根を寄せる。
「それは天使にのみ許された法術だ」
アズリエルの背中の翼の一翼の羽が全て切っ先を鴇矢へと向ける。
その鴇矢といえば。
「いける……」
イメージ通り自分の背中から生えた翼。その切っ先が敵に向けて今にも放たれようとしていた。
結果はどうなるか解らないが、鴇矢のイメージした結果は再現できた。
ミカエルが行った翼から放たれ自身を叩きのめした技。
直接敵へのダメージが意味無いのであれば、
「全羽一斉掃射!!」
外傷をまずは負わせる。
魔術の行使に体力を必要とするのなら当然法術の行使にも体力が必要となるはずだ。
天使化したアズリエルが如何に膨大な体力を有しているかなど解らない。
だがそれならその膨大な体力が尽きるまでダメージを与え続ければいいだけの話。
「舐めるな!」
羽と羽がぶつかり合う。ここまではイメージ通り。
「イメージしろ。起こすべきは――」
瞬間だった。
アズリエルの肩が空気によって圧縮されるようにダメージを受ける。
空間圧縮断絶砲弾。白河の得意とする空気を圧縮して敵を叩き潰す単純な空間魔術。やり方は解らずとも理屈は解る。空気を圧縮するというイメージに必要な魔力を補完すればいいだけ。
何も難しいことなどなかった。
連続して行われる疑似空間圧縮断絶砲弾の威力は確かにあるようでわずかだがアズリエルの怯みが見えた。
「小賢しい」
だがすぐにそれを払い除け一気にかたをつけようと接近。
「アークセナル展開」
アズリエルの右手に聖剣が現れる。
目で追える速度ではない。
ならば単純な話。どこかへ飛べばいい。
ついでに直進で向かってくるであろうアズリエルに膝が入る場所へ――
「が、ぐ」
自分の勢いをそのままに鴇矢の膝を顔面に受けたアズリエルが地面に乱回転しながら転がる。
「まだだあ!!」
それに猛攻をかけるように連打を浴びせていく鴇矢。
ルシファーの肉体強化は相当なもののようで解放したアズリエルといえど無事では済まない。
肉体が軋み血反吐を吐くアズリエル。
止めに放った魔力全開の拳がアズリエルの顔面を陥没させる勢いで突き刺さった。
アズリエルの身体は乱暴に投げられたおもちゃのように宙を舞い、地面を砕きそして止まった。
「……終わった?」
いくつかの羽でダメージを負ってはいたがミカエルに受けたダメージに比べれば大したことない。
事実上の大勝利といったところだろうか。
と思った矢先だ一瞬の閃光が目に映った直後何者かの掌が鴇矢の目の前にあった。
ゴキリと鈍い音が響き、その瞬間鴇矢の足が宙に浮き音速で後方へと吹き飛ばされた。
凄まじい衝撃で支部の建物に突入した鴇矢。
「やってくれたなルシファ――」
言葉を発する口を無理やり閉ざすようにアズリエルの顎に拳が突き刺さる。
「生憎その程度でくたばるほど易い訓練は受けてねえんだよおっさん」
因果による瞬間移動。衝撃で舞った砂埃が逆にアズリエルの反応を遅らせた。
イメージしろ。アズリエルを機能停止に追い込む結果を。
大天使の解放者を追い込むほどの一撃を。
空中で器用に翼を羽ばたかせ体制を整えるアズリエル。
「この小僧が」
砂埃を突き破り突進してくる鴇矢。
アークセナルを振るうアズリエル。
直前で瞬間移動しアズリエルの後ろに回り込んで拳を殴りつけるも光の壁によって防がれる。
すぐに超反応で後ろにアークセナルを振るってくるアズリエルに鴇矢はとにかく壁をイメージして魔力を注ぎ込んで作る。
だがそれは容易く砕かれ鴇矢の身体を光の聖剣が切りつける。
「が、」
痛い。だが耐えれるレベル。
それよりも問題は魔力が体外へ流れ出ていく感覚。
魔力行使の難しくなった身体を無理やりアズリエルから離す。
「はぁはぁはぁ……くそ、魔力が止まらない」
流れ出ていく魔力のせいでただでさえ下手な魔力操作が困難になっていく。
「終わりだなルシファー。アークセナルをそれだけ深く切りつけられ無事な悪魔などいない」
勝ちを確信するように口元を歪めるアズリエルに息切れ寸前の鴇矢ができることはなんだ。
思いつかない。
何をイメージすればいい。
この状況で起こせる結果はなんだ。
思い浮かばない。
「くそ」
手加減している場合ではない。
アズリエルの心臓を潰す。それに必要な原因はなんだ。
結果を起こす為に必要な過程はぱっと思いついたのは自分の手で心臓を握り潰すこと。もっと単純な手段もあるかもしれないがこのやり方が一番単純で簡単な方法、つまりアズリエルの心臓を潰す結果を生み出す原因。
「イメージしろ。そこに魔力を注ぎ込め」
全力で魔力を注入。するとアズリエルがわずかに苦痛の表情を浮かべる。
「無駄だ。その程度で俺の心臓は潰せんよ」
どうすればいい。どうすればアズリエルに対抗できる。
勝つにはどうすればいい。
今のままではアズリエルを倒すことはできない。
倒すには今のままでは駄目だ。
そう、それこそ悪魔にでもならなければ
「……それなら」
瞬間移動で近づきアズリエルの胸に手を当てる。
これで先ほどよりも少ない魔力で同じ結果を起こすことも、
「同じ量の魔力でもっと正確な結果を引き起こせる」
「何?」
相手との距離がゼロならばその分の魔力は必要ない。
心臓に手が近ければ近いほど心臓を手で握り潰すという結果の原因を補える。
イメージする結果は、結果を引き起こす原因である過程を省けば省くほど補完しなくてはならない魔力の量が減っていく。
「ならさっきと同じ量の魔力でさっき以上の結果を引き起こせる。てめえの心臓を握り潰せる」
それとは別に、明確に結果をイメージすればするほど膨大な魔力が必要となり、引き起こす結果も可能性から絶対に近付くことになる。
前に白河の言っていたことを思い出す。
何故だろう。対象が目の前にいる方がイメージが正確になる。
アズリエルのアークセナルが振るわれる。
「遅い!」
さっき以上の魔力を注ぎ込む。
狙いは――
「――は?」
アークセナルを持つアズリエルの腕が地面に転がる。
「ぐあああああああああああああああ!! お、俺の」
立て続けにもう片方の腕が捥げる。
絶叫を上げるアズリエルは同時に恐ろしいものを見た。
鴇矢の背中に黒く大きな翼が十枚生えていた。
鴇矢のイメージは自身すら大悪魔そのものに変化させていた。
そのあまりの畏怖に両腕を捥がれたアズリエルは全く動けずにいた。
魔力が体内から流れ出ている以上の量の魔力を鴇矢は吸収していた。
拳が真っ黒に染まる。膨大な魔力が注ぎ込まれていく。
何故急にとアズリエルは思う。
何故鴇矢は、この男は突然覚醒するように力を行使した。
それを理解する間もなく殴れば大天使の四肢を砕くほどの威力を持つであろう拳が振られた。
空気が死んだ。
辺りで戦っていた称号者たちがその動きを止めた。
ひゅーっと空中から地面に堕ちたアズリエル。彼の頭はついたまま。
鴇矢は顔面を捕える寸前で動きを止めた。しかしあまりの精神的ショックから気絶してしまったのだ。
アズリエルはピクピクと身体を動かしているがとても意識を取り戻せるような雰囲気ではない。
その状況を確認したのか白マントの連中は我先にと逃げ出していく。
「よくやったわね、まさかアズリエルを一人で倒すなんてね」
「白河……」
建物からゆっくり出てきた白河。その視線の先には死にかけのアズリエルがいた。
「それにしてもなんで止めを刺さなかったの?」
「必要無いと思ったからだよ。こいつの腕は無くなったし、大したことはできないと思ってな。それに何より……俺はまだ人間でいたいと思った。それだけだよ」
「甘いのね。それじゃあいつか自分が死ぬわよ」
「その時はその時だな」
「展開……断層鋭絶剣」
白河の右手から発生されたのは空間を切り裂き、空間を繋ぎ止める、最悪無比な代物。
それを振るう相手は当然だが。
「殺すのかよ?」
アズリエルは瀕死の状態だ。止めを刺す必要があるのか鴇矢には疑問だった。
「当然でしょう。アズリエルは大天使の解放者の一翼。これはチャンスよ。だから褒めてあげたの。こいつを始末するチャンスを与えてくれたことをね」
「せ、せっかくだし生け捕りにして情報でも抜き取ればいいんじゃないか」
「不要よ。そんなことマモンからすでに抜き出してる」
躊躇も無くアズリエルに近づく白河。
鴇矢はその時長瀬の言葉を思い出した。
天使側にも人間としての生活があるのだと。つまりこのアズリエルという情けなく打ち上げられた魚のようにピクピクしている男にもアズリエルとして以外の生活、そして家族やらがあるということ。
「な、何も殺す必要はないんじゃないか。もう無力なんだしさ」
「……こいつはラグナロク、悪魔の敵よ。それともあんた本当にルシフェルになるつもりなのかしら?」
視線が突き刺さる。見逃すことはあり得ない。そう目が言っていた。
ここまで天使を恨む理由。もしかすると白河にはさっき言っていた以上の理由を持っているのかもしれない。
だがしかしだ。アズリエルにはこれっぽちの同情なんて無い。自分の命を狙ったような奴だ。だがそれでも白河にアズリエルを殺させることは間違っているような感じがした。理屈なんて無い。ただそう思っただけだ。
「そうなら嬉しいって奴なんだけどねぇ~」
突如空中から聞こえた声。
同時に放たれる光の光線。それを空間固定で鴇矢を含めて同時に防ぎ切る白河。大した芸当だ。瀕死の状態でよくやったと褒めてやりたいくらい。
空間固定を解いた白河は頭上から少しづつ降りてくるそれに殺意を向ける。
ありがとうございました




