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今日から悪魔(ルシファー)  作者: 流石挿入画
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今日から悪魔(ルシファー)第十九章

よろしくお願いします

 自分は何の為にラグナロクのメンバーとして、ルシファーの転生者の一人として戦っていくのかいまいち解らなくなった鴇矢は答えを求めるようにラグナロク北関東支部に着いた。

「白河は何を思って戦ってるんだろうな」

 レヴィアタンの転生者である彼女は一体何を目的に戦っているのか聞く必要がある気がしてならなかった。

 謎の転校生として登場して鴇矢をルシファーに転生させた。

 そもそも何故俺を生き返らせようと思ったのか。そのまま見捨てていれば良かったのではないだろうか。それとも彼女なりに何かがあったのか。いろいろと気になることが山積みだ。

 これからルシファーとしてどうしていけばいいのか、白河が何と言うのか気になる。



「気分よ」

 あっさりとそんなことを言う白河に肩から荷物が急降下で落ちる気持ちになる鴇矢。同時に苛立ちのようなものも感じてきてしまう。

「よくよく考えればお前にルシファーにされなかったらユグドラシルの連中に殺されそうになることもなかったんじゃないのか」

「そしたらあんた死んでて今ここにいないわよ。そうだとしたらあの時異空間ごとあんたを消して証拠隠滅する必要があったし。それともそっちの方が良かった? 言ったでしょう、私には回復魔術のような通常魔術を使うことはできない。致命傷を負った人間を救える空間能力の応用なんてないわ」

「う……」

「まあ巻き込んじゃったしあのまま死なせておくのも気が引けたから救ってあげるつもりで転生させてあげたのよ。感謝してほしいくらいよ」

 あっけらかんと言う白河。

「さっき長瀬に聞いたんだ。あいつの母親って悪魔の称号者に殺されたらしい。正確には俺みたいに戦闘に巻き込まれたからみたいだけど」

「そう。それは不運ね」

 随分とあっさりした物言いだ。

 やはり天使側の人間の言うことになど興味は無いということだろうか。

「だからあいつがユグドラシルの側に就いてラグナロクに対抗する理由は解る。だけどお前はどうなんだ。俺だってそうだ。一体何を目的にお前は戦ってんだ。そんで何を目的に俺は戦えばいい」

「私がなんの為に悪魔側について戦っているかなんてあんたに関係あるの?」

「長瀬に言われたよ。俺の返答次第でなら、ユグドラシルから狙われないよう処置を取ってくれるって」

「どんな?」

「なんでもルシフェルにするってことらしい」


 少し黙った後、なるほどね、と呟いた白河。

 ある程度予想はしていたといった様子。

救ってくれたことには感謝している。しかし長瀬のことを知って、身の危険を感じて、それでもラグナロクの一員として戦うべきなのか正直解らなかった。

「アズリエル程度にビビってるようじゃまだまだね」

「アズリエルがどんな奴なのか知ってんのか」

「当然でしょう。戦ったことはないけどマモンの情報じゃサリエルと同レベルの解放者ってことくらいかしら」

「十分脅威じゃねえか」

「…………要するに戦う理由が欲しいっていうわけあんたは?」

「そうだよ。自分の命を賭けるんだ。それに見合う理由が欲しい」

 そう言う鴇矢の真剣な眼差しを受けてかやや面倒そうに頭を掻いた白河はいつもの、いやいつも以上の気だるい口調で言葉を口にした。

「私が天使ではなく悪魔の味方をするのはレヴィアタンだからって理由だけじゃないわ。もし自分が悪魔じゃなく天使の転生者に生まれ変わっていたんだとしたら舌を噛んで自殺していたかもね」

「自殺って……そんなに天使が嫌いなのかよ」

「ええ嫌いよ。天使も天界も神も、そしてそいつらを崇めて讃える豚どもも」

「天使や神を崇拝する連中ってのはべつに珍しくないだろ」

「……ええそうね。私はねああいう何の努力もせずつまらない祈りに自分の命運を委ねる連中や、それを受けて神座で踏ん反り返って正義面してるクソ蟲が死ぬほど嫌いなの。神は人なんて救わない。そんなものにすがるみじめな連中。向かってくるなら蹴散らすまでの話よ」

「要するに天使や神が嫌いで自分は悪魔だから戦ってるだけなのかよ」

「考えたことない? 神や天使なんてもんを信仰している多くの国より、そんなもんの存在を大して信じてなくて信仰もしていないこの日本って国の犯罪率が世界で最も低い国の一つだってこと」

「いや無いけど」

「要するに神なんて存在しないの。もし仮に神様なんてものが本当に存在するんだとすれば、そいつは人間の為に動く存在じゃないってことよ。理由なんて単純。それだけよ。あんたが単に能力の目新しさに惹かれてルシファーとして力をつけてきたように、私は他力本願な連中、天使だの悪魔だのの問題を人間界にまで持ち込んできた天界の連中がうざいだけ。レヴィアタンの力をせっかく手に入れたんだから、なら戦ってやろうって考えるのは普通のことじゃないかしら」

「それは……」

「まだ悩んでるのね」

「いやべつに」

「私はねまだ母親の胎内にいる頃にレヴィアタンにされたの」

「はあ!?」

「理由はラグナロクに属していた父が私をレヴィアタンの転生者にしたの。おかげで私を出産する際にその膨大な力に耐えれなかった母は身体を突き破られて死んだわ」

「……」

「その後父が取った行動を知ってる?」


 白河は頭を抱えながら言う。

「勝手にラグナロクに失望してユグドラシル側に寝返ったのよ。天の力ならきっと奇跡を起こして母を生き返らせれると思ってね。まあもっともレヴィアタン召喚なんて真似をした父は利用されたあげく死亡。幼少期にラグナロクに拾われた私はそこで固有能力の力を身につけることとなった。だから私はつまらない希望にすがる人間が嫌いだし、それがユグドラシルの人間なら叩きのめすまでなの。少なくともユグドラシルから狙われた私を救ってくれたのはラグナロクだからね」

 なんでこんなことあんたに言わなくちゃいけないのかとそっぽを向く白河。

「普通かどうかは解らんが、まあお前の言いたいことは解った」

 白河にはやはり白河の事情があった。

 これを聞いて自分はどうすればいいのか本気で戸惑ってしまう鴇矢。

「で、このつまらない理由を聞いてあんたは――っ」

 怪我が響いたのか。ベッドに倒れ込む白河。


「大丈夫か」

「大丈夫じゃないわよ。誰のせいだと思ってんのあんた」

「それはまあ、俺のせいだな」

 そう言う白河の身体には無数の傷が痛々しく残っていた。

 まだ回復が追い付いていないのだろう。

 誰のせいでこんなことになったのか。

「……俺は馬鹿か」

「何よ今更」

「……悪かった」

「は?」

 理由なんて単純なものこんな目の前にあったんじゃないか。

 誰のおかげで救われたのか。

 誰のおかげで白河は傷ついているのか。

 ラグナロクの為に仕方なく?

 それでも理由なんてそれだけで十分だったんじゃないのか。

「べつにラグナロクのことなんて興味もないけど、救われた事実に目を瞑って希望にすがりつくみたいな真似俺にはやっぱできねえわ」

 白河は鴇矢をじっと見つめたまま何も言わない。

「今日ミカエルと戦った」

「――なんですって」

「勝てなかった。因果を操って倒そうとしたけどそれ以上の力でねじ伏せられた。今の俺じゃあ絶対に勝てないってことは解った」

「当然ね。現ユグドラシルのミカエルは事実上のユグドラシル最上級幹部。おまけに転生者として天界と行き来できる数少ない存在って聞くわ。あんたじゃ勝てないのも無理はない。むしろ生きて帰ってこれたことを奇跡と思うことね」


 だが合点がいったと白河は言う。 


 何故そんなにボロボロの状態で帰って来たのか。そして堕天した天使を天界に復帰させるなんて真似そうそうできることじゃない。だがミカエルであるならば不可能ではない。事実上天使の最上位に君臨する女。それがミカエルなのだから。

「あんたの意思はともかく早く回復しないと本当に手遅れになるわ」

「そうだな」


「……え」


 突然白河が窓を向く。

「どうしたんだ」


「結界が破られたわ。それも強引に。まさかあり得ないわ」


「まさか襲撃!? だけどここの結界はそんな簡単に。それに後二日は来ないはずじゃあ」

「……長瀬の言っていたことなら事実でしょうね。彼女が回復するには後二日必要だった。だけどそれを待っていられない状況ができたんでしょうねあちらさんにも」


 位相のずれを感じた。

 この辺り一帯が外からは見えなくなったということ。

 つまり天使の襲撃を意味している。

 鴇矢は窓から顔を出し外を見た。白いマントが十数人。それとは別に黒いマントも十数人いる。飛び交う魔術と法術。

「援軍よ。先日ようやく到着したの」

「そうだったのか」

「ただ、……彼らではあれを倒すには非力過ぎるわ」

 一瞬の閃光が視界の端に映り鴇矢のいた部屋の隣をロケットランチャーで撃ったかのように爆発させる。その閃光によって半数以上の黒マントの味方が消滅したのが確認できた。

 白マントたちが使ってるようなレベルの法術じゃない。

 圧倒的なまでの破壊力。間違いない。高位法術だ。


 白河を一瞥した鴇矢は窓から飛び出る。地面に着地した際の衝撃を因果を操り無くし眼前を見る。白く輝く六枚の翼を持った男が一人。随分と偉そうなその表情に多少なりとも癪に障る。学校でのカーストならばこちらの方が上だ。

「てめえがボスか」

「お前は…………ああそうか、お前が噂のルシファーか。写真でしか見ていなかったのでな、すぐに気付けなかった。いやなんにせよ、そちらから出てきてくれたとなればこちらとしても有難い」

 翼を上手く扱い地面に着いたその男の名前は、

「俺はアズリエル。ユグドラシル関東支部の統括を任されている者だ」

「ああそうかい」

 そんな説明はどうでもいい。説明されなくても解る。

 長瀬がサリエルになった時と同様に顔に文様の入ったその面を見れば解放者であることも、この近辺でラグナロクに攻め入る解放者が誰なのかも説明されずとも解る。

「さっそくで悪いが上からの命令でな。お前には俺についてきてもらいたいわけだ」

「上の命令だと」


 それを聞いてピンと来たのはミカエルと名乗ったあの女。二日の猶予を言ったのは長瀬であってミカエルじゃない。だとすればこれはミカエルの差し金なのかもしれない。

「貴様はまだ能力を自在に扱えないと聞く。死にたくはないだろう? 俺とてむやみに殺すのは気が引けるのだ。だからこうしてお前をルシフェルとして迎え入れようと言っているのではないか」

 やっぱりかと深くため息を吐く鴇矢。

 ミカエルがアズリエルを仕向けたのだろう。今までの失敗を見逃すとでも理由づけて。



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