2008年8月29日
お盆休みもすっかり終わり、9月に向けて仕事も忙しくなり始めた。
使えない派遣も使える派遣も、皆、それぞれそれなりに忙しくしている。
「今日も疲れたなあ」
それでも、いつもより早くあがれたことで、帰り道も少しだけ浮き足立つ。
すっかり日も短くなって、夜に聞こえるのも、カエルの代わりに、虫の音になってきていた。
「ただーいまー」
特に待つ人もいない部屋に、つい実家にいた頃の癖でそう言えば。
「おかえりなさーい、朱美さん!」
「……何してんの、あんた」
ぱたぱたと見えない尻尾を千切れんばかりに降ったサンタクロースが、何故かふりふりエプロンを身にまとい、新妻さながらに部屋から出てきた。
ついに不法侵入か。
靴を脱ぎ掛けたままの態勢で視線を投げれば、へらっと、邪気のない笑顔を返される。
「窓の鍵、開いてましたよ。危ないですよ!」
めっとばかりに人差し指を向けられた。
「……確かにね」
あんたみたいのがいるかもしれないからね。
口にしなかったあたしは、奇行を繰り返すこの無邪気なサンタクロースに、たぶん、かなり、慣れつつあるんだと実感した。
「で、何しにきたの」
新妻サンタクロースが勝手に用意してくれた夕飯に手を付けながら、本題に入る。
メニューが全て和食だったことに、少しだけ驚きつつ。
「じ、実は……」
「歯切れ悪いな」
「しゅ、」
「しゅ?」
何だ。
「……しゅ、宿題を……手伝って…くれないでしょうか…っ!」
「……宿題?」
もじもじと発せられた単語に、思わず手が止まる。
「はい、あの……9月1日には、提出しなくちゃいけなくて……でも、あの……全然、出来てなくて……」
お前は小学生か。
泣きそうな目で訴えてくるこいつに、今までとはまた違ったデジャブを覚えた。
しかも、宿題って。
「ちなみに、何の宿題?」
まさかとは思いつつ、一応、聞いてみる。
まさかと思ってはいる、だってほら、そうは言えど世界を股に掛けいろんな意味で国境を越えるワールドワイドでインターナショナルなサンタクロースなわけだし。
そんなあたしの密かな期待露知らず、ぱあっと輝いた顔で、サンタクロースははきはきと答えた。
「はいっ、作文です!サンタクロース協会で毎年夏に出されるんです」
……まさかだった。
ていうか。
やっぱりあるのか、サンタクロース協会。
しかも、論文じゃなく作文なのかサンタクロース協会。
せめて宿題じゃなく課題と言って欲しかった、サンタクロース協会。
そして結局。
「ちょっと。そこの漢字は『思いました』でしょ。『重いました』ってどういうことよ」
「あ、そうか」
「そこ、接続語おかしいから。『お』じゃなくて『を』ね」
本当に小学生さながらな間違いを犯すサンタクロースに、溜め息さえ出る暇のないお母さんのように指摘しまくっていた。
サンタクロース協会、もう少し、教育に力を入れた方がいい。
そんなことを思いながら、残り少ない、夏の夜は更けていった。
ちなみに。
作文のテーマは『街で見つけたよい子』だった。
「出来ました!」
何々……蜘蛛の巣を避けて歩いていた、妊婦さんに電車で席を譲っていた、階段でおばあちゃんの大きな荷物運びを手伝っていた…云々。
「ふうん……こんな子いたんだ。いい子だね」
「朱美さんのことですよ」
「あたし!?」
いい大人の善行(当たり前では?)は、こうして、善い子の見本として、サンタクロース協会に提出される運びとなったのである。
それ、アリなのか。
end?




