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365日のサンタクロース  作者: 鈴木
2008年のサンタクロース
7/17

2008年8月29日

お盆休みもすっかり終わり、9月に向けて仕事も忙しくなり始めた。

使えない派遣も使える派遣も、皆、それぞれそれなりに忙しくしている。



「今日も疲れたなあ」



それでも、いつもより早くあがれたことで、帰り道も少しだけ浮き足立つ。

すっかり日も短くなって、夜に聞こえるのも、カエルの代わりに、虫の音になってきていた。



「ただーいまー」



特に待つ人もいない部屋に、つい実家にいた頃の癖でそう言えば。



「おかえりなさーい、朱美さん!」

「……何してんの、あんた」



ぱたぱたと見えない尻尾を千切れんばかりに降ったサンタクロースが、何故かふりふりエプロンを身にまとい、新妻さながらに部屋から出てきた。


ついに不法侵入か。


靴を脱ぎ掛けたままの態勢で視線を投げれば、へらっと、邪気のない笑顔を返される。



「窓の鍵、開いてましたよ。危ないですよ!」



めっとばかりに人差し指を向けられた。



「……確かにね」



あんたみたいのがいるかもしれないからね。


口にしなかったあたしは、奇行を繰り返すこの無邪気なサンタクロースに、たぶん、かなり、慣れつつあるんだと実感した。



「で、何しにきたの」



新妻サンタクロースが勝手に用意してくれた夕飯に手を付けながら、本題に入る。

メニューが全て和食だったことに、少しだけ驚きつつ。



「じ、実は……」

「歯切れ悪いな」

「しゅ、」

「しゅ?」



何だ。



「……しゅ、宿題を……手伝って…くれないでしょうか…っ!」

「……宿題?」



もじもじと発せられた単語に、思わず手が止まる。



「はい、あの……9月1日には、提出しなくちゃいけなくて……でも、あの……全然、出来てなくて……」



お前は小学生か。


泣きそうな目で訴えてくるこいつに、今までとはまた違ったデジャブを覚えた。

しかも、宿題って。



「ちなみに、何の宿題?」



まさかとは思いつつ、一応、聞いてみる。

まさかと思ってはいる、だってほら、そうは言えど世界を股に掛けいろんな意味で国境を越えるワールドワイドでインターナショナルなサンタクロースなわけだし。

そんなあたしの密かな期待露知らず、ぱあっと輝いた顔で、サンタクロースははきはきと答えた。



「はいっ、作文です!サンタクロース協会で毎年夏に出されるんです」



……まさかだった。


ていうか。

やっぱりあるのか、サンタクロース協会。

しかも、論文じゃなく作文なのかサンタクロース協会。

せめて宿題じゃなく課題と言って欲しかった、サンタクロース協会。


そして結局。



「ちょっと。そこの漢字は『思いました』でしょ。『重いました』ってどういうことよ」

「あ、そうか」

「そこ、接続語おかしいから。『お』じゃなくて『を』ね」



本当に小学生さながらな間違いを犯すサンタクロースに、溜め息さえ出る暇のないお母さんのように指摘しまくっていた。

サンタクロース協会、もう少し、教育に力を入れた方がいい。

そんなことを思いながら、残り少ない、夏の夜は更けていった。


ちなみに。

作文のテーマは『街で見つけたよい子』だった。



「出来ました!」



何々……蜘蛛の巣を避けて歩いていた、妊婦さんに電車で席を譲っていた、階段でおばあちゃんの大きな荷物運びを手伝っていた…云々。



「ふうん……こんな子いたんだ。いい子だね」

「朱美さんのことですよ」

「あたし!?」



いい大人の善行(当たり前では?)は、こうして、善い子の見本として、サンタクロース協会に提出される運びとなったのである。

それ、アリなのか。






end?

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