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365日のサンタクロース  作者: 鈴木
2008年のサンタクロース
6/17

2008年7月7日

織姫と彦星が年に一度逢瀬をするこの日。

それどころではないあたしは、ベッドにぐったり沈んでいた。



「……だるい……」



いわゆる夏風邪ってやつだろうか。

たまたま掛かってきた親からの電話でそう言えば、



「バカがひくもんなのよー」



……と、大爆笑された。

酷いと思うのは、気の所為じゃない。


会社に休みの電話を入れて、早数時間。

だるさと熱でぼんやりとしていれば、ピンポーンと軽快にチャイムが鳴った。



「……はーい」



誰が出てくれるわけでもないのが一人暮らしの辛いところ。

仕方なしにふらふらと覗き穴から確認して、その人物に絶句した。



「一体、何しに……」

「ほらほら、寝てないとだめですよ朱美さん」

「いや……あんたが来たから起きたんだけど……」



ドアを開ければ、そこにいたのは相変わらずの暑苦しい赤に身を包んだサンタクロース。

あまりにすっとぼけた会話をして、ほらほらと背中を押されて部屋に入る。



「寝ててくださいね」



いや、寝てたいのは山々なんだけど。



「あんたはだから、何をしに……」



何でビニール袋をテーブルに広げているのか。

中からどうして、卵とか鮭とか出てくるのだろうか。

熱に浮かされた頭で、ただその光景に首を捻っていれば、サンタクロースがにこっと笑った。



「お粥は作れるんです、任せてください!」



何とベタな展開だろうか。

どうやら世界を相手取るサンタクロースが、七夕に看病をしてくれるらしい。



「……どうして風邪って知ってるの」

「吉蔵さんに聞きました」



だから吉蔵さん、本当に何者なんだ。



「ほら、もう寝ててくださいね。出来たら起こしますから」



邪気のない笑顔に折れて、仕方なくベッドに入る。

トントンと小さく響く包丁の音、人の気配。

風邪をひくと人恋しくなるって本当なんだ。

少しだけ嬉しいと思いながら、気が付けば寝入っていた。





「……朱美さん、出来ましたよ?」

「……んー?」

「大丈夫ですか?」



二度目の呼び掛けで、視界に入った物体による衝撃でばっちり目が覚めた。

物凄い至近距離に金髪青眼の青年がいたら、誰だってそうなろう。


お前は誰だ。



「やだなあ、寝呆けてます?千尋ですよ」

「……外人さんじゃん」

「国籍は日本なんですよ」



ああ……そんなこと言ってたっけ。

しかし、違和感が半端ない……いや、そういうこともあるのかもしれないけれど。

金髪青眼の日本人を否定するわけではないけれど……そうか、今まで気付かなかったのは瞳の青がすごく濃いからだ。

一見して黒に見えなくもないその色は、深い蒼をしていた。

あれ……でも、前に見たとき、髪の色って普通に黒っぽくなかった?



「起きられますか?」

「あ、うん」



だいぶ楽になったので、リビングでお粥を食べることにした。

取り敢えず髪の色は置いておこう。

つい4日前に、マジシャン顔負けイリュージョンを見せ付けられたばかりだ。

髪の色なんて今さらと言えば今さら過ぎる。


何故か一緒にお粥を食べるサンタクロースのバックには、残念ながら、天の川は見えない。

織姫と彦星なんて、そんな伝説を信じる歳でもないけれど。



「雨降っちゃったね」

「ああ、七夕ですよね」



珍しい、サンタクロースが七夕を知ってるとは。



「吉蔵さんにでも聞いた?」

「はは、バレちゃいました?」



あははと恥ずかし気に笑ったサンタクロースのバックは、相変わらずの霧雨。

ベランダにいつの間にか設置されている笹の葉は、今回は大目に見ることにして。



「でも、きっと会えましたよ」

「そうかな」



七夕なんて、風邪をひいて寝込まなければ、きっと忘れていただろうけれど。



「だって、雨が降っても、風邪をひいても、僕なら会いに行きますよ」



ね、と笑ったサンタクロースに、思わず赤面した7月7日の夜。





「で、玄関入ったときまでは黒髪だったと記憶してるんだけど」

「ああ、本来は金髪なんですよ」

「どういう仕組み?」

「サンタクロースマジックです」

「……あ、そう」



さて。


織姫と彦星の逢瀬は、果たして叶ったのだろうか。



「あのさ」

「はい」

「笹の葉、持って帰ってよ」

「ええっ」

「ついでに、この間の鯉のぼりも」

「ええっ」






end?

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