2008年4月19日
桜の見頃もすっかり過ぎて、少しずつ緑の濃くなってきた季節。
葉桜から覗く空は、生憎と灰色だった。
それでもいつもと変わらず忙しない街中を悠々と歩くあたしは、夕飯の買い物を済ませて、いつも通りの休日を満喫しながら、自宅へと足を進めた。
「……あんた、何してんの?」
自宅マンション前。
いつぞやに見た懐かしくも暑苦しい赤に、思わず、夕飯のサンマを落としそうになった。
「あっ、おにぎりごちそうさまでした!」
いつの話をしてるのか。
おにぎりをあげたのは、確か、1ヶ月以上前だったような。
とりあえず、どこからどう見ても不審者以外何者でもない正真正銘サンタクロースの襟首をひっつかんで、引きずるように自宅へと駆け上がった。
「で?あんた、ノルウェーはどうしたの?」
紅茶が切れてたので代わりに玄米茶を出しながら、相変わらずな付け髭を外すサンタクロースに、首を捻ってそう言った。
「桜が見頃だって聞いて来たんですけど……」
「……は?桜?」
何の話だ。
「はい。アメリカで行き倒れちゃって、そのときマイケルが“日本では今頃桜が見頃らしい”って言ってたんで……」
マイケルって誰だ。
というか、やっぱりまた行き倒れたのか。
──こいつ大丈夫か。
いつぞやに抱いた不安に、あたしはまた駆られた。
玄米茶を啜るサンタクロースってのも笑える構図だが、こいつの思考回路の方がよっぽど心配になる。
「大体、アメリカまでは行けたんでしょ?何でまた日本に」
ものすごく無駄なことだと思うのは、きっと、あたしだけじゃなかろう。
詳しくはないが、桜ならアメリカにもあったはずだ。
日本から贈られた桜が植えられた並木道を、いつだったかテレビで見たことがある。
ああ、あっちとこっちでは季節が違うか……いや、季節が異なるのは南半球であって、アメリカは同じくらいじゃなかったっけ?
時差を考えながらサンタクロース青年をぼんやりと眺めていると、玄米茶から視線を上げた彼が、えへへと照れくさそうに笑って言った。
「……あなたと見たくって」
二の句が継げないとは、まさに、このことかもしれないと──あんぐりしながら、そんなことを思った。
「……もう見頃は過ぎて葉桜だけど、それでもいいなら見に行く?」
「はい!」
嬉しそうに笑ったサンタクロースに、呆れて溜め息が出たけれど。
「とりあえず、着替えてからね」
ユニセックスのスウェットしかなかったのでそれを着せて、にこにこしながら隣を歩くサンタクロースが、日本生まれだと聞いたのはこの日の夕飯時。
ちゃっかりサンマを一緒に食べるはめになったあたしは、この状況がおかしいことに、まだ、気づいていなかった。
「サンマって秋じゃないんですか?」
「うるさいな、食べたかったのよ」
end?




