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365日のサンタクロース  作者: 鈴木
2008年のサンタクロース
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2/17

2008年3月3日

桃の花が香る季節。

あたしの家の目の前に、サンタクロースが倒れていた。


──いや、おかしいんだけど。

嘘偽りなく、見る限りそれはサンタクロースだったのだ。





「……で?あんたの言い分だと、ノルウェーに向かう前に飢え死にしそうだったからソリから飛び降りたって?」

「ええ、まあ……あはははは……」



頭を掻きながら照れ笑いをするのは、どう見積もっても22歳がいいとこな青年。

この時期には暑苦しいファー付きの赤い服を着て、口元の付け髭は、出された紅茶を飲むために取り外されていた。


とりあえず、こいつ大丈夫か。


最初見たときもそう思ったけれど、本気で倒れてたら普通、助けるのが人としての性なわけで。

ただ、「サンタクロースなんですよー」と言われて「そうなんだー」とあっさり受け入れられるほどめでたい頭の作りなわけでもない。



「証拠は?」



一応食事の準備をしながら、振り向き様に問い掛けた。

不安要素が拭えない現在、隣には竹箒が用意されている。

うちにそんなものはなかったので、仕方なく、大家さんが毎朝うちのマンション前を掃いているやつを失敬した。



「あ、サンタクロース認定証ありますけど」

「いや、それって資格としてあるらしいけど、そうじゃなくて」



そんな資格が実在してるらしいことは知っている。

けれど、あたしが言いたいのは、いわゆる奇跡とか言うやつだ。



「ああ、いいですよ」



にこっと笑って彼が指を鳴らせば、部屋中一面、クリスマスデコレーションに早変わりした。

──驚いた……が、呆れた。



「食べ物は出せないんだ?」

「ええ、まあ……あはは……」



何とも無駄な能力だなあと思いつつ、流石にこれは……受け入れざるを得ない。

指を鳴らしただけでクリスマスデコレーションなんて、あまりにファンタジーだ。

実用的じゃない辺りが、妙に信憑性を帯びているような……気がしないでもない。

しかしそれでは飢え死にしそうにもなる。

というか、何故わかっていて、準備もなく出発したりするのだろう。


やっぱりこいつ、大丈夫か。


あたしの思考をよそに、用意してやったインスタント味噌汁とご飯、昨夜の残り物の肉じゃがといんげんのゴマ和えを件の人物はひたすらにかっこんでいるが。





そうして、すっかり食べ終えた彼に、何故かわたしが不安になったので、おにぎりと簡単な付け合わせを持たせた。

自分で言うのも何だが、何たるお人好し。



「ノルウェーまで保つとは思えないけど」

「ありがとうございます!」



その癖のない笑顔なら、またどこかで倒れても何とかなるだろう。

とりあえずは、あたしの見える範囲で行き倒れなければよし。

だけど出来れば行き倒れてくれるな。



「こんな春先から、サンタクロースも大変なんだねえ」

「まあ、世界中相手取ってますから」



語弊のある台詞を言ってのけ、彼がぱちんと指を鳴らす。

季節外れの鈴の音と共にマンション屋上に現れたソリに、驚愕してから苦笑した。



「あっ、クリスマス!楽しみにしててくださいね!」



ぶんぶんと手を振りながら、笑顔で彼は、まだ肌寒い春の空へと消えていった。


あいつ、本当に大丈夫だろうか。



「……まあ、社交辞令が言えるくらいだから大丈夫か」



そんな、桃の節句を過ぎた3月3日の季節外れも甚だしいサンタクロースの奇跡。



「あ、竹箒片付けなきゃ」






end?

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