あとがき
ここまで『王太子殿下、その恋は口から出す前に止めてください』をお読みくださり、本当にありがとうございました。
本作は、第100話をもちまして完結となります。
王太子殿下は、最初から悪い人ではありませんでした。
むしろ、誰かの役に立ちたいという気持ちは強く、好きな人を大切にしたいという思いも本物でした。ただ、その気持ちが強すぎるあまり、相手の返事を待つ前に答えを用意し、必要とされる前に助け、まだ約束されていない未来まで決めてしまうことがありました。
そんな殿下を止め続けたのが、マリアです。
会いたいと思うこと。
期待すること。
頼られたいと願うこと。
相手のために何かをしたいと思うこと。
そのどれも、悪い感情ではありません。
けれど、その気持ちを理由に、相手が考える時間や選ぶ権利まで奪ってはいけない。
殿下は失敗するたびに注意され、落ち込み、時には反発しながらも、一つずつ学んでいきました。
待つこと。
断られても、すぐに嫌われたと決めないこと。
一度できたことを、次もできる約束へ変えないこと。
助けられる場面でも、本人が自分で進む時間を残すこと。
失敗の意味を、失敗した本人より先に決めないこと。
相談されたからといって、最後の答えまで引き受けないこと。
相手が話していない不安を勝手に作らないこと。
そして、何も話さない時間さえ、二人で過ごす時間になり得ること。
殿下は、百話をかけて少しずつ変わりました。
もちろん、完璧になったわけではありません。
今後もきっと、黄桃を理由に会いに行こうとしたり、相談される前に資料を十冊ほど用意したり、「また明日」という言葉へ予定を三つほど足そうとしたりするでしょう。
それでも、以前とは違います。
止められた時に考えられるようになりました。
自分の嬉しさや寂しさと、相手の選択を分けて考えられるようになりました。
そして何より、自分が選ばれなかった時にも、これまで学んだことを全て無駄にする人にはなりたくないと、殿下自身が思えるようになりました。
最終話では、殿下とご令嬢を明確に恋人同士にはしませんでした。
告白も、婚約も、将来の約束もありません。
けれど、ご令嬢は自分から殿下へ会いに行き、自分が選んだ距離だけ近づきました。
殿下も、その一歩を次の日の義務へ変えず、今日のものとして受け取りました。
二人の恋は、ここで完成したのではありません。
これからも、近づいたり、迷ったり、少し離れたりしながら続いていくのだと思います。
ただ、最初の頃とは違い、今の二人なら、相手の言葉を奪わず、自分の気持ちも隠しすぎず、その都度話し合いながら進んでいけるはずです。
そのため、本作は「恋が成就した瞬間」ではなく、「二人が同じ速さで歩き始められた瞬間」を完結地点としました。
全100話。
長い物語へ最後までお付き合いいただけたこと、心より感謝いたします。
王太子殿下の失敗に笑ってくださった皆様。
マリアと一緒に殿下を止めてくださった皆様。
植物研究会の発表や、ご令嬢の迷いを見守ってくださった皆様。
そして、少しずつ変わっていく殿下を最後まで応援してくださった皆様。
本当にありがとうございました。
殿下。
物語は完結しましたが、恋愛相談が終わったわけではありません。
ですから。
完結記念として王宮主催の祝賀会を開く必要はありません。
ご令嬢へ百本の黄桃を贈るのもやめてください。
校舎裏のベンチへ記念碑を建てることも禁止です。
マリアへ「百回止めてくれた功績」を理由に勲章を授けようとするのも、まず本人へ確認してください。
最後まで。
本当に。
お願いします。
改めまして。
『王太子殿下、その恋は口から出す前に止めてください』
最後までお読みくださり、本当にありがとうございました。




