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境界線の上で、立つ — Standing on the Line —  作者: 和泉發仙


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33/73

第三十三話 成功の報告

前書き


物事が

静かになったとき、

それは

解決したからとは

限らない。


ただ、

語りやすくなった

だけのこともある。





変化は、

会議室から始まった。



三崎は、

配布された資料を

見下ろしていた。


駅前エリアにおける

若年層滞留事案

対応状況(報告)


“滞留事案”。


言葉が、

整えられている。

•現在は沈静化

•大きなトラブルなし

•地域の理解も進展

•見守り体制が奏功


「……奏功、ですか」


思わず

呟いた声は、

誰にも拾われない。



「良い結果だね」


上司が言う。


「大事にならずに

済んだ」


三崎は、

顔を上げなかった。


「何が

変わったかは

書かれていません」


上司は、

少し驚いた顔をする。


「変わらなかった、

ということが

成果だろう?」


三崎は、

その言葉を

反芻した。


変わらない、

という成果。


それはつまり、

見えなくなった

という意味だ。



同じ頃。


トマスは、

編集部からの

メッセージを

眺めていた。


日本での

若者支援の

成功事例として

まとめられそうだ


成功事例。


説明が簡単で、

波風が立たない。


「……違う」


彼は

短く呟く。


だが、

違うと書くには

材料が足りない。


“問題が起きていない”

以上、

反論は

感情論になる。



夕方。


ミオは、

駅前を

通り過ぎた。


立たない。


座らない。


ただ、

通り過ぎる。


誰も

止めない。


誰も

見る理由を

持たない。


「……成功、

なんだ」


ミオは

独り言のように

言った。


成功とは、

邪魔にならない

ということらしい。



夜。


コンビニの裏。


今日は、

誰も

集まらなかった。


三崎は

一人で

立つ。


エリオットも、

トマスも

来ていない。


彼は、

ミオのいない

段差を

見つめた。


「……成功、

ですか」


言葉が

空に消える。



少し遅れて、

エリオットが

現れた。


「来なかった

ですね」


「ええ」


三崎は

頷く。


「それが、

“安定”です」


エリオットは

苦い笑みを

浮かべた。


「安定とは、

人が

話題にならなく

なることです」



トマスから

メッセージが

届く。


書けない

成功として

まとめられそうだ


三崎は

短く返信した。


書けないなら

書かなくていい


少しして、

返事。


書かないことも

立場になる


三崎は、

それを

否定できなかった。



その夜。


ミオは、

別の場所で

立っていた。


駅前ではない。


明るくもない。


だが、

誰にも

管理されていない

空間。


「……ここなら」


独り言。


立っても、

意味を

与えられない。


回収されない。


成功にも、

失敗にも

ならない。



三崎は

そのことを

まだ

知らない。


ただ、

胸の奥に

残る違和感だけが、

確実に

次の線を

引いていた。



後書き


成功とは、

説明しやすい

結果です。


説明できないものは、

なかったことに

されます。


この話で描いたのは、

問題が消えたのではなく、

語りの外に

追いやられた

瞬間です。


次は、

この“成功”に

疑問を持つ人が、

静かに

不利益を

被る話です。



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