04 想定外の提案
結論から言うと、私は戸惑いながらも伯爵夫人の申し出を受け入れる事にしました。
そうと決まれば、とんぼ帰りして今まで暮らしていた住処に戻ると、工房を辞して、部屋の荷物を纏めました。
まぁ、荷物と言っても大した物は無いんですけどね。
それでも私には大事な物ばかりです。
そしてなけなしのお金をはたいて、洋服を購入する。
さすがに伯爵家に客人として滞在するなら新品の服を買った方が良いと思ったのです。
今までは労働者階級なら一般的なエプロンドレスで過ごしてきたのですが、さすがにそんな格好で伯爵家をうろつくわけにもいきません。
とは言っても、白を基調とするブラウスに黒色のスカートと言った大した事のない格好なのですが。
一応、流行遅れなど無い、中流階級では一般的な定番の服装を選んだつもりです、はい。
そして髪の毛を丁寧に丁寧に梳きこんで、最後に微かに良い香りがする香油を髪に撫でつける。
これで何とか見られる格好になったでしょう。
満を持して再度訪れた伯爵邸。
従僕に客間の一室に案内され「ここが貴女の部屋です」と言われる。
今までの部屋とは大違いの広い部屋です。
そして複数人のメイド達が待機していました。
案内してくれた従僕が立ち去ると、
「大奥様から貴女様の衣装合わせをするように申し使っております」
そう言われたあとはなすがまま、メイド達がテキパキと私の身体を採寸し、すでに用意してあったドレスの裾を詰めたり、袖丈の調整をしていく。
その間、私はぼんやりとかつて実家にて令嬢と過ごしていた頃を思いだしていました。
あぁ、そういえばあの時もこんな感じでしたね。
そうして暫くすると、完全に身体に合っている、というわけではないものの、問題の無いレベルで調整されたドレスが出来上がった。
まぁなんとも至れり尽くせりな事です。
その後は、これまたすでに用意されていた化粧品で軽くお化粧をし、それが済むと伯爵夫人の元へと案内される。
「まぁ何とか見られる姿になったわね」
開口一番、酷い言われようである。
「我が家に滞在して貰う以上、以前会った時のような酷い格好はさせられませんからね。滞在中の衣装はこちらで用意しますから安心なさい」
「……ご配慮感謝します」
「そうそう、貴女は私の恩人の養女、という事にしますからそのつもりで居なさい」
「えっ!?」
なんかトンデモ無い事を言い出しましたよ?
「なぜですか?」
「貴女は以前、元の家は捨てたと仰っていたでしょ?察するにウッドヴァイン公爵家のご令嬢だという事は黙っていた方が貴女の希望に合うと思ったからよ。で、その代わりとして我が家に滞在する相応しい理由が必要になるわよね?だから私の恩人であるスター・ウッド様の養女という事にします」
なるほど、ちゃんと考えてくれてるんだ。
「と、言うわけで、養母を失くした気の毒な貴女を、私が面倒を見る為に我が家に客人扱いで滞在してもらう、それで宜しいわね?」
「はい、問題ありません」
「では少し、我が家について話して置きましょうか」
そう言って伯爵夫人はつらつらとご家族について話し始めた。
まずは夫と、息子、そして息子の配偶者はすでに亡くなっているそうだ。
なので現在、この館の主、現伯爵は私を呼び寄せたべラ・ロースソーン伯爵夫人の孫で有り、現在は出かけているようだ。
現伯爵は元軍人だそうで、肩書だけでなく実際に外国の戦場へも行った事がある本当の軍人らしい。
それが父である前伯爵の死去に伴って、爵位を継ぐために軍を辞して帰って来たのが昨年の事との事。
そしてあとは現伯爵の妹であるアイリス。
ただ、この妹は本当の妹でなく養女らしい。
そして領地管理人であるアルヴィン。
アルヴィンは伯爵夫人の弟の息子という事で現伯爵とはいとこ違いにあたるとの事。
現状、家族と呼べるのはこの四人だけのようです。
説明が終わると、伯爵夫人はベルを鳴らして使用人を呼びつける。
「アイリスとアルヴィンを呼びなさい」
「はい、了解しました」
そして待つこと暫く、ドアが静かにノックされると、二人の男女が入ってきました。
「……おばあ様、この方はどなたですか?」
そう言ったのは艶のあるブルネットの髪を持つ可愛らしい少女です。
年のころは十代前半なのかな?
キリリとした顔立ちで可愛いながらも気の強さを感じさせます。
その少女は、まるで私の事を異物でも眺めるような顔でそう言ったのでした。
「アイリス、紹介するわ。こちらはロザリンド・ウッドヴァイン。私の恩人の養女に当たる方で、今日からこの屋敷に滞在します」
「ロザリンド・ウッドヴァインです。宜しく御願いします」
「……アイリスよ、宜しく」
最低限の挨拶だけすると、用は済んだとばかりにその少女はさっさと部屋から出て行ってしまいました。
「……はぁ、あの子もしょうがないわね。こっちはアルヴィン。先程説明した通り、我が家の領地管理人を任せているわ」
「アルヴィン・ヘディと申します。宜しく、ロザリンド嬢」
そう言って私の事を訝し気に眺めるのは、こちらもブルネットの髪を持つ美形の男性です。
歳は二十代後半ぐらいか、もっと上でも三十代前半ぐらいでしょうか。
伯爵夫人の弟の子供と聞かされていたので、もっと年のいった男性を想像していたのですが、意外にも若いですね。
「ロザリンド・ウッドヴァインです。こちらこそ宜しく御願いします、アルヴィンさん」
こちらはさすがに領地管理人を任されているだけあり、訝し気な顔をされたものの、露骨に失礼な態度を取られる事はありませんでした。
「先程言った通り、ロザリンド嬢は今日より我が家に滞在します。私の恩人の養女ですから、それを忘れずに接しなさい」
「了解しました、伯母上」
はぁ、一体この家でどんな生活が私に待っているのでしょうか?




