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03 べラ・ロースソーンとの対面

 年老いたご夫人でありながら、それでいて年を感じさせない軽やかな身のこなし、そして皺が刻まれた顔ながら、若い時は美しかったと感じさせる気品が漂っています。

 きっとこの方が私に手紙をくれた方――現伯爵の祖母にあたるというべラ・ロースソーンなのだろう。


「貴女がロザリンド・ウッドヴァイン嬢ですか。初めまして、私はべラ・ロースソーンと言います」


「ロザリンド・ウッドヴァイン、と申します。お目にかかれて光栄です。ロースソーン伯爵夫人」


 そう言ってお互いに挨拶を済ませると、勧められるままソファーに腰を下ろした。

 正確にはこの目の前の女性は前々伯爵夫人なのですが、孫である現伯爵はまだ結婚されてないと聞きますし、まぁ問題無いでしょう。

 察するに年齢は六十代を超えて七十代に近いはずですが、しかし、そこまでの年齢にも見えません。

 五十代と言っても通るぐらいです。

 普段から若作りに余念が無いと思います。

 そんな事を思っていると、鋭い声が投げかけられた。


「何か、私に対して失礼な事を考えていませんか?」


「そんな事はありません、伯爵夫人」


 すました顔で嘘を吐く私である。


「あら、そう?」


「そうですとも。それで、私にご用件とは一体何なのでしょうか?」


「それは、ね」


 そう言ってロースソーン伯爵夫人は近くにいる従僕に合図を送ると、暫くして従僕は銀色の盆に何かを乗せてやって来ました。

 どうやら、乗っているのは手紙の様です。


「スター・ウッド様からの手紙を預かっているの、貴女宛です」


「えっ!?」


 その言葉を聞いた私は衝撃を受けた。

 スター・ウッドは私の大叔母様の名前です。

 大叔母様が亡くなられたのはもう一年近く立ちます。

 なぜ今更手紙なんかを、と思いつつ私は差し出された銀色の盆から手紙を受け取りました。

 その手紙はインクが激しく滲んでいました。

 それでも、かろうじて私の名前である『ロザリンド・ウッドヴァイン』という文字は読める。

 なぜ、こんな手紙を今更渡されるのだろう?

 そう思っている所に丁度説明が入る。


「ごめんなさい、実はその手紙は郵便屋の不手際で、私に届いた時からダメになってしまっていたの。失礼とは思いつつ、中の便せんも確認したけど同じようにダメになっているわ」


 私はその言葉を確かめるように手紙を封を開けました。

 ……なるほど、見事にインクが滲んでいて内容が判別できませんね。


「それでも何とか宛名の文字を読み取って、貴女宛だと分かったのだけれど、その時には貴女はもう所在が分からなくなっていて探すのに苦労したわ」


「そんな事情でしたか、お手数おかけしました」


 私は頭を下げると、その内容が分からない便せんを丁寧に折り畳み、封筒に仕舞いこみました。

 そして大叔母様の顔を思いだし、涙が出そうになる。

 もうとっくに大叔母様が亡くなった事は吹っ切れたと思ったのに、不意にこのような手紙を渡されるとやっぱりダメですね。

 最初は伯爵夫人の手紙など無視してしまおうか、などと思ってしまいましたが、やっぱり来て良かったと思えました。

 私は胸に手紙を抱えて立ち上がりました。


「ありがとうございました、それでは私はこれで――」


「待ちなさい、まだ私の話は終わっていません」


「えっ!?」


 そう言って座るように即される。

 一体これ以上、どんな用件があるんだろう?


「貴女宛ての手紙と一緒に私宛の手紙も一緒に入っていたわ。その手紙も勿論、濡れてインクが滲んでいたのだけれど、貴女宛の手紙よりマシな状態だったのよ。そしてその手紙には貴女の事を宜しく、そう書いてあったの」


「はぁ、それは――」


 伯爵夫人の言葉を聞いて、私は一瞬戸惑いました。


「貴女の居所を調べるのに人を何人か雇ったのだけれど、その者達には同時に貴女の事を調べさせたのよ。報告によると貴女は今、随分と酷い環境にいるようね」


「……まぁ、恵まれている、とは言えませんね」


「でしたら貴女を客人扱いとして、この家に迎えようと思います」


「それは……、折角のお申し出ですが、ご辞退させて頂きます」


「……意外だわ。理由をお聞きしても?」


「私は長い事、上流階級とは言えない生活をしてきました。伯爵家に滞在する客人としては相応しくありませんから」


「貴女の事は聞いているわ。ご実家から逃げ出して、亡きスター・ウッド様が面倒を見ていたのですよね」


 伯爵夫人が呆れたように言うのを私は全力で否定します。


「いいえ、違います。私は家から逃げ出したのではありません。私から家を捨てたのです」


 自分で言っておきながら傍から見ればその違いがどこにあるのかは分からないだろうな、と思いながらもちゃんと主張しておかなければなりません。


「……まぁ、それはどっちでも構わないわ。私は亡きスター・ウッド様の最後の願いを叶えてあげたいと思っているだけよ」


「それは……」


「貴女だってお世話になったスター・ウッド様の最後の願いを無視したくは無いでしょう?」


「それは、その通りですが……」


 それを持ち出されると私も弱い。

 大叔母様には大変お世話になったし、その最後の願いであれば叶えたいという気持ちもあります。

 私は暫くの間戸惑いを隠せないのでした。

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