02 馬車に乗って
そしてその日、私ははるばるロースソーン家が納める領地へとやって来たのでした。
と言っても、直接向かうのでなく、まずは適当な安宿に泊まるのですけどね。
「いらっしゃいませー」
そんな気持ちが良い声に釣られるように、私は余所行きの笑みを浮かべると、数日泊まりたい旨を出迎えてくれた少女に告げます。
すると早速二階の見晴らしの良い部屋に案内された。
「それではごゆっくりー」
そう言って立ち去ろうとする少女を慌てて呼び止める私。
「あ、ちょっと聞きたいことがあるんだけど」
「はい?なんでしょー?」
「ロースソーン伯爵の邸宅ってどの辺りにあるの?」
「ロースソーン伯爵様の御邸宅なら、向こうに見えるあの建物です」
と、少女は開け放たれた窓から見える建物を指さしました。
私も、その指を差した方向をじっとみつめる。
そこには遠目からでも分かるほど、大きくて立派な建物がありました。
「あのお屋敷がそうなんだ。……ついでに聞くけどべラ・ロースソーンって人の事はご存知です?」
「ベラ様ですか?その方はロースソーン伯爵のお婆様ですー」
「……そうなんだ、伯爵のお婆様ね」
伯爵の縁戚なのは間違いないと思っていたけど、そんなに近い間柄なんてね。
ちょっと予想外でした。
そんな人が私にどんな用事なんだろう?
と、不思議に私の胸はおどりました。
「呼び止めて悪かったわね。聞きたいことはもう無いです」
私がそう言うと、少女は部屋を去っていきました。
その背中を見送ると、私は早速備え付けの古びた机に向かい手紙を認める。
この宿に泊まっているので、いつ屋敷に訪れればよいか、という内容ですね。
書き終わると何度か見直して、失礼がないか確認する。
短い文面なのに何度も書き直してしまっただけあって礼節は弁えた文面になったはず……なったんじゃないかな……なったよね?
ダメだ、見直すたびに不安になってくる……。
私は見直すのを辞めて、手紙を封筒に入れて封をする事にしました。
そして階下に降りると先程の少女に郵便屋の場所を聞き、その場所へと向かったのでした。
★★★★★
郵便屋から帰った後、私は暫くの間ぼーっと過ごして居ました。
日々の労働から解放されて、全てが平穏に時が流れて行きます。
勿論その代わりに賃金は手に入らないし、それどころか宿代としてお金は出て行ってしまうのですが……。
とはいえ、ここまでの旅費と宿代はしっかり伯爵家に請求するつもりです。
そんな事を思いながらも私はベッドの上でいつの間にかうつらうつらと浅い眠りに落ちかけていたその時です。
平穏を打ち破るようにコンコンと部屋のドアが叩かれました。
「はい、どうぞ」
私がそう声をかけるとドアが開きました、顔をみせたのは少女です。
「あ、あの。お客様に迎えの馬車が来ています」
「馬車?」
「は、はい。は、伯爵家からです」
「あ、そうなんだ」
私はベッドから飛び降りると、少し古くなった上着に着替え、急いで宿の外へと向かいました。
するとそこには少女が言った通り、立派な馬車が一台停まっています。
「お待たせしました」
私は小走りに馬車へ駆け寄ると中へと案内されます。
馬車は走り出してまもなく、ロースソーン伯爵家の正門へとたどり着き、そこでスピードを落とすとゆっくり中に入った。
私が馬車から降りると、丁度玄関から出てきた従僕を思われる青年と目が合いました。
「……」
「……ロザリンド・ウッドヴァイン様でございますか?」
そう言って従僕は私を見て目を細めました。
見た所20代半ばと思われる見た目が良い……まぁ美形と言っても問題無い青年です。
裕福な貴族に相応しいお仕着せを着た美形の従僕か、有りですね。
などと思いながらジロジロと観察していると、再び青年から声がかかる。
「……申し訳ありません、ロザリンド・ウッドヴァイン様では無いのですか?」
「あ、はい!えっとロザリンド・ウッドヴァインです」
そう言って私はべラ・ロースソーンから来た伯爵家の家紋入りの手紙を見せます。
つい返事もせずに相手をジロジロとみつめてしまった、我ながら失礼にも程がある振る舞いです。
すると青年は、
「おまちしておりました」
と、言って私を中に招き入れ、そのまま客間へと案内される。
しばし質の良さそうな家具や調度品などをぼんやりと眺める事数分後、メイドが紅茶や茶菓子を持ってきてくれた。
「ウッドヴァイン様、ベラ様が来るまで今しばらくお待ちください」
「あ、はい」
私はそんな返事をしてメイドが出て行くのを見守った後、紅茶やお茶菓子に手を付けました。
まずは香り高い紅茶を堪能した後、お茶菓子を頬張る。
美味しい!
これは食べた事があります。
これはクラフティというタルト生地にシロップ漬けにした旬のフルーツを乗せてふんわりと焼き上げたお菓子ですね。
ザクザクとしたクッキーのような外側の感触とふんわりとした中の食感とともに甘酸っぱいフルーツがとてもとても調和しています。
それを3口ほどで食べきってしまいました。
少しお腹が空き始めていた私には少し物足りなかったのですが、無くなってしまったものは仕方ありません。
後は香りを楽しみながら紅茶を飲んでいると、不意に客間のドアが空き、一人の女性が入ってきました。




