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住民ゼロからの覇王道 〜魔族の王、最果ての地より眷属を増やして世界を統べる  作者: わびさびわさび


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第18話 総力戦

「フィア、ミィア! 戦線を立て直す! いけるか!?」


「……お兄さんの経験が流れ込んできてるから、魔法の使い方も……うん! いけるよ!」


「なんとなく、今ならいける気がする……やってみる!」


以前のように元気な返事をする二人に、俺はわずかに口角を上げた。


「コルネリア、お前は二人を指揮しながら俺に敵を近づけさせるな!」


「……任された!」


コルネリアが力強く頷くと同時に、三つの影が爆風を伴って飛翔した。


『血の契約』によって共有された俺の力が、彼女たちの才能を爆発的に押し上げたのだ。コルネリアが漆黒の刃を放てば、フィアが漆黒の弾丸を放ち、ミィアが黒き炎を巻き上げる。この場はもはやオークの優位ではなく、漆黒の死神たちが舞う地獄へと変質していた。


(一人ずつ、確実に……!)


目の前では、傷ついたハーピーの戦士が数匹のオークに組み伏せられようとしていた。俺は『縮地』でその懐に潜り込み、オークの喉元を闇魔法の刃で一閃する。


「……あ……が……っ……ありが……とう……」


地面に転がった彼女は腹部を深く裂かれ、もはや絶望に瞳を曇らせていた。俺は迷うことなく、指先から溢れ出した真紅の血を彼女の唇に押し当てる。


「生きろ。死にたくなければ、俺の言葉に魂を預けろ!」


(──『血の契約』!!)


ドクン、と心臓を鷲掴みにされるような魔力喪失感。だが、それと引き換えに彼女の傷口が内側から急速に塞がっていく。


「……ぁ……身体が、熱い……? うそ……傷が!?」


「これで、25人目……っ!」


荒い息を吐きながら、俺は立ち上がった。視界の端で火花が散る。短時間にこれだけの人数の「死」を上書きし、命を繋ぎ止める代償は、俺の精神と魔力を確実に削り取っていた。


【魔力】 MP: 295 / 2335(-80 / 施設コスト + 255 / 還元)


MPはすでに底が見え始めている。眷属を得たことで多少なりとも魔力の還元を受けてはいるが、それも微々たるものだ。


「……はぁ、はぁ……。だが、流れは変わったぞ」


顔を上げれば、そこには先ほどまでの絶望的な地獄絵図はなかった。

致命傷を受けていた者や既に亡くなっていた者は眷属に、命に別条がなかった者はポーションで癒して戦線に復帰させた。


コルネリアたちや新たに眷属となったハーピーたちに、分断されて個別で戦っていた者たちが合流し、戦場を縦横無尽に駆け巡ってオークの包囲網をズタズタに引き裂いている。


「者共、続けッ! 主(あるじ)が繋いでくださったその命、欠片たりとも無駄にするな!」


コルネリアの凛烈な号令が響く。

俺が救い上げた25人の戦士たちは真紅の瞳を爛々と輝かせ、以前とは比較にならないほどの力と魔力でオークを圧倒していた。彼女たちの実力は、ハーピーの種族平均であるDランクを大きく上回っている。少なくとも、俺が先ほど仕留めたオークジェネラルと同等かそれ以上のキレだ。特にコルネリアの動きは凄まじく、その一閃はBランクの強者にさえ匹敵するだろう。


分断されていた各地の生き残りたちも彼女たちに合流し、巨大な「反撃の渦」となってオークの軍勢を飲み込み始めていた。


しかし……。


「コルネリア! 一旦退け!!」


俺は喉を振り絞って叫んだ。


「どうした主よ。もう少しでオーク共を駆逐……!」


俺の叫びを聞きつけて、不満そうな顔でコルネリアが戻ってきた、その時──。


──ズゥゥゥゥンッ!!


戦場全体を震わせるような、重苦しい足音が響いた。


大気を圧迫するほどの、どす黒い魔力の咆哮。逃げ惑っていたオークたちが一斉に動きを止め、恐怖に顔を歪めながらも道を開けていく。


「な、なんだ……この気配は……!?」


闇の向こう側から姿を現したのは、他のオークとは一線を画す巨躯。

身に纏う鎧は血と脂で汚れ、その手には俺の背丈ほどもある巨大な大剣が握られている。周囲のオークたちが霞むほどの威圧感。

その顔面には数え切れないほどの刀傷が深く刻まれ、右の牙は根元からへし折れている。だが、残された左の牙は異常なほど太く鋭く、赤黒い血の色に変色していた。幾多の戦士を屠り、その返り血を吸い続けてきた証だろう。


「……オークキング……!」


群れの王。ただのジェネラルとは格が違う。あれは間違いなく、Bランク……いや、それ以上の怪物だ。

王は自らの進路を邪魔する味方のオークを容赦なく踏み潰しながら、真っ赤に充血した瞳でこちらを睨み据えた。


その背後には、全身を重装甲で固め、巨大な盾と戦斧を手にした重装騎士のようなオーク。

もう一人は、怪しげな呪具を身に纏い、禍々しい魔力を指先から滴らせる老いたオークが控えている。


「……あれが、此度の元凶か……」


コルネリアの忌々しげな呟きと、ハーピーたちが息をのむ音が聞こえた。


「グガァァァァァァッ!!!」


鼓膜を突き刺す咆哮。

王は肩に大剣を担ぎ直すと、足を止めた。

背後に控える側近さえも一歩下がるほどの重圧。王は真っ赤な瞳を細め、俺を……正確には、俺が放つ異質な魔力を値踏みするように見下ろした。


「……人間……イヤ……ソノ忌々シキ紅瞳……魔族カ?」


地鳴りのような、低く掠れた声。オーク特有のたどたどしさはあるが、そこには明確な「知性」と「王者の傲慢」が宿っていた。


「……どうやら、そうらしいな」


俺は荒い呼吸を整え、滲み出る冷や汗を拭った。

オークキングの眼光は、ただ立っているだけで肌がピリつくほどの密度を持っている。


「羽虫共ヲ幾ラ繋ギ止メヨウト、我ガ剣ノ前ニハ、全テハ肉塊ニ過ギヌ」


「フン。随分と自信満々のようだな」


俺の言葉を単なる強がりと思ったのか、オークキングは醜い顔を歪めて嘲笑った。


「確カニ魔族ハ強大ナ魔力ヲ誇ル種族ト聞ク。シカシお前の魔力ハ枯渇寸前ヨ。恐ルルに足リズ」


確かに、俺の魔力は枯渇寸前。この状態で格上のBランク相手に挑むのは無謀だ。昨日までの俺なら絶望的な状況と言える。


だが、今の俺には眷属がいる。


俺は眷属たちと繋がった魔力パスを意識し、精神を集中させた。

眷属化──それによって主従の魔力パスが繋がり、互いに魔力の譲渡ができるようになるのだ。


一斉に、眷属たちとの不可視のラインが輝きを増した。

彼女たちの魔力残量がわずかに削られるのと引き換えに、空っぽだった俺の腹の底に、濁流のような魔力が流れ込んでくる。


「傲慢だな。そんなんじゃ、いつか足元を掬われ……」


俺はオークキングの言葉を遮るように、挑発的な笑みを浮かべた。

キングはさらに顔を醜く歪め、巨大な拳を振り上げようとした。


「……るぜ」


そう言い終わるのと、オークキングの背後に控えていた側近・呪術師オークの首が宙を舞ったのは同時だった。


──ザシュッ、という乾いた音。


一瞬前までキングの背後にいたはずのオークメイジは、首を失った巨体を、まるで糸の切れた人形のように地面に崩し落とす。どす黒い血飛沫が、キングの背中を無遠慮に汚した。


「ナッッ!?」


オークキングが驚愕にその血走った目を見開く。


【シャドーゲート】──闇魔法レベル3で新たに習得した魔法だ。


戦場に点在する「影」を繋ぎ合わせ、その間を自在に渡る。俺はキングとの会話で注意を引きつけつつ、自分の足元の影へと溶け込み、メイジの背後に伸びた影からの出現と同時に、闇魔法で強化した剣を一閃して首を刎ねたのだ。


こいつは搦手とかを使いそうで厄介そうだったから、先に始末させてもらった。


──ボトッ、と音を立ててメイジの頭部が転がる。


「……オ、オノレぇ……っ! グオッ!!」


怒りで顔を真っ赤に染めたオークキングが、背後の味方ともども俺を両断せんと大剣を横薙ぎに振るう。だが、その刃が空を切るよりも早く、俺は再び足元の闇へと沈み込み、コルネリアの影から元の位置へと舞い戻っていた。


「さすが、わらわの主よ。オークキングも主にかかれば形無しよな」


戻った俺の隣で、コルネリアが不敵に口角を上げる。


「しかし、あいつ結構固いぞ」


影に潜る直前、牽制として結構な魔力を込めた『黒弾』をキングの至近距離で炸裂させたのだが、奴は顔を背けることさえしなかった。焦げ跡こそついているが、致命的な痛打には至っていないらしい。


「「きゃ〜♪ お兄様素敵です〜♪」」


「「キャ〜♪ 私が卵を産んだら、是非主様の魔力を〜♪」」


緊迫した戦場にはおよそ似つかわしくない、ハーピーたちの黄色い歓声が周囲から湧き上がった。


(お前ら……それどころじゃないだろ……!)


あまりの緊張感の無さに膝から力が抜けそうになるが、正面の「絶望」は止まってはくれない。


「ガアアアッ! 殺セ! 刻メ! 跡形モ無ク踏ミ潰セェェッ!!」


王の咆哮。


目の前で出し抜かれた屈辱に、オークキングは完全に理性をかなぐり捨てた。

大剣を引きずり、爆発的な踏み込みでこちらへと突進してくる。重装甲のオークガードも、その巨躯に見合わぬ主君の怒りに呼応するように盾を打ち鳴らし、突撃の構えを取った。


大地が震える。


夜の静寂を切り裂くオークの軍勢と、熱狂に沸くハーピーたちの最後の戦いが、間もなく始まろうとしていた。

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