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住民ゼロからの覇王道 〜魔族の王、最果ての地より眷属を増やして世界を統べる  作者: わびさびわさび


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18/19

第17話 闇の眷属

夜の静寂を切り裂き、俺は弾丸のごとく森を駆け抜けた。

木々の隙間からようやく視界が開け、ハーピーたちの住処である岩山が姿を現す。

だが、その光景を目にした瞬間、俺の胸を焦がしていた焦燥感は、凍り付くような戦慄へと変わった。


(……クソッ、これは予想より遥かに状況が悪い)


目に飛び込んできたのは、凄惨という言葉すら生温い地獄絵図だった。


本来、空という絶対的な優位を持つはずのハーピーたちが、無様に地上へ引きずり下ろされ、絶望的な戦いを強いられている。


彼女たちは背後から不意を突かれたのか、各所で分断包囲され、「組織的な抵抗」など、もはやどこにも残っていない。


空を舞う誇り高き翼は折られ、分断され、数に勝るオークの軍勢に、文字通り押し潰されようとしている。


あちこちで耳を刺すのは、勝者の下卑た笑い声と、追い詰められたハーピーたちの悲痛な叫び。

それはもはや「戦い」ですらなかった。一方的な「狩り」「虐殺」だ。


噛み締めた唇から血が滲む。


(……させるかよ。これ以上、好き勝手には……!)


俺の視界の端で、地面に突き立てられた剣に縋り付くコルネリアの姿が映る。

その背後に、ニタニタと笑いながら短刀を振り上げる、醜悪なオークの影。


俺は自らの魔力を爆発させ、地面が陥没するほどの勢いで地を蹴った。


「サァ。女王様ハドンナ悲鳴ヲ……」


そのオークが、獲物をいたぶる悦びに浸り、言葉を発しようとした瞬間──。


──ザッシュッ!!


鈍い音と共に、その首が宙を舞った。


噴き出した鮮血が、コルネリアの頬を赤く汚す。


「……遅くなった」


◇


コルネリアの危急を見て、思わず敵のど真ん中に飛び込んじまったが、現状は控えめに言っても最悪だ。


【魔力】 MP: 1780 / 2120(-80 / 施設維持コスト)


【ランク】 C


【スキル】 剣技: LV3


【種族スキル】 闇魔法: LV3 / 時空魔法: LV2


【固有スキル】 真祖: LV1


敵は千を超すオーク。Cランクに上がり、以前より格段に強くなったとはいえ、この数を俺一人で相手にするのは現実的じゃない。


何より、魔力が持たないだろう。


こんな事になるなら、森で少しでも数を削っておけば良かったが、今更悔やんでも始まらない。

俺とコルネリア、二人だけなら逃げるのは容易だが……。


「……ラルフ、何故ここに?」


掠れた声。背後で、コルネリアが信じられないものを見るような目で俺を見上げていた。


「女王様が、お困りのようだったんでな」


「……一応、礼は言っておこう。……しかし、皆逝った。わらわだけ生き残る訳にはいかぬ。お主一人ならば奴らの包囲を突破することも可能であろう。……悪いが、幼子らと卵を、頼む」


はぁ、と溜息が出る。この女王様なら、やっぱりそう言うよな。


だが、感傷に浸る時間は一瞬もなかった。


「ナニヲシテイル! 囲ンデ縊り殺セ!」


指揮官を失った混乱から立ち直ったオーク共が、飢えた獣のように一斉に距離を詰めてくる。そりゃ、敵さんもいつまでも待ってはくれない。


「【黒炎】!!」


俺は闇魔法のレベルが上がり、より威力と密度が増した漆黒の炎を放った。先頭の数匹が絶叫と共に炭化する。その隙に、俺は辛うじて剣にしがみつくようにして立っていたコルネリアの腰を、片手で強引に抱きかかえて走り出した。


「なっ!? 離せ! 離してくれ!」


「……なあ、女王様。奴らを一匹残らず皆殺しにできる策があるとしたら、乗るか?」


腕の中で暴れるコルネリアを制しながら、俺は冷徹に、かつ真剣に問いかける。


「こんな時に何を! わらわの誇りを……!」


「答えろ!!」


俺の怒声に、コルネリアが息を呑む。


「……そんなもの、決まっておる! 皆の仇が取れるならば、わらわは悪魔にでも魂を売り渡そうぞ!」


「……そうか。なら、契約成立だ。クレームなら後で聞いてやる!」


俺はそう言い放つと、固有スキル【真祖】へと意識を深く沈め、集中させる。


俺の固有スキル【真祖】は、他者に自らの魔力を分け与えることで、対象を絶対的な忠誠を誓う「眷属」とすることができるスキルだ。眷属は俺に絶対的な忠誠を誓うことへの対価として、魔力、身体能力が飛躍的に向上し、さらには主である俺が持つ種族特性の一部を共有・使用することが可能となる。


「な……ラルフ、何を……」


俺は空いた方の指先を噛み切り、溢れ出す鮮血を、驚愕に目を見開くコルネリアの唇に、躊躇なく押し当てた。


「──『血の契約』!!」


ドクンッ!!


鼓動が一つに重なり、俺の魔力が強引に彼女の体内へと流れ込む。

消費されるMPは100。だが、数値以上の喪失感が俺を襲う。それと引き換えに、俺の脳内には情報の奔流が逆流してきた。


(……怖い、暗い……っ。守らなければ、女王として……娘たちを……!)


それは、コルネリアが抱えていた剥き出しの感情。女王としての孤独、そして娘たちを奪われた絶望。彼女の魂の断片が、俺の意識を激しく揺さぶる。


同時に、彼女の体に劇的な変化が訪れた。


「あ、あ、がぁああああッ!!」


彼女の喉から、悲鳴とも咆哮ともつかぬ声が漏れる。

血管が真紅に浮き上がり、彼女を蝕んでいた『魔封じの呪毒』が、俺の濃密な魔力によって瞬時に中和され、霧となって排出されていく。折れた翼の骨が、嫌な音を立てて繋ぎ合わされ、七色の羽が瑞々しく再生していった。


何よりの変化は、彼女の手の甲だった。

光が収束していく中心、そこには複雑な幾何学模様を成す、闇と時を司る魔族の象徴『永劫の影紋』が鮮烈に浮かび上がっていた。


「……信じられぬ。身体が、熱い。魔力が……溢れてくるぞ……!」


コルネリアは自分の手を見つめ、震える声で呟いた。

真祖の魔力を得たことで、身体能力や魔力は以前と比べ格段に膨れ上がり、何より魔族となった事により彼女の視界からは「暗闇」という概念が消失していた。


今、この戦場にいる千のオークたちが、逃げ場のない「標的」として、彼女の目に鮮明に映し出されている。


俺は満足げに頷き、まだ動かないフィアとミィアの亡骸を見つめた。


「少し時間を稼いでくれ、いけるか?」


俺の確認に、コルネリアは力強く、かつてないほど鋭い眼光で応えた。


「ラルフ……いや主よ、わらわに任せておくが良い。娘たちを頼む」


彼女が地を蹴った瞬間、爆風のような突風が吹き荒れた。

眷属となり、俺の魔力と特性をその身に宿した彼女の動きは、もはやオークの動体視力で追えるものではない。一閃。最前列にいたオーク三匹の首が、反応する間もなく宙を舞った。


俺は、彼女が作り出した一時の空白地帯の中で、冷たくなり始めている二人の少女、フィアとミィアの元へ膝をつく。


(……間に合ってくれよ!)


二人の傷は深い。フィアの胸は貫かれ、ミィアの喉はズタズタ、その鼓動も止まっている。だが、魂が完全に離れきっていない今なら、俺の血と魔力で「死の運命」を上書きできるはずだ。


俺は迷わず、先ほどよりも深く自分の指先を切り裂いた。

ドクドクと溢れ出す真紅の血を、まずはフィアの唇へと押し当てる。


ドクン、と心臓がひっくり返るような衝撃。

俺の体から魔力の奔流が引き抜かれ、指先を通じて彼女の中へ流れ込んでいく。それと同時に、俺の意識はフィアの記憶の断片へと強制的に同期させられた。


(……お母様、ごめんなさい。……あ、ラルフ様。また、美味しいお肉、食べたかった……な……)


純粋で、あまりにも切ない最期の想いが俺の胸を締め付ける。

だが、その消え入りそうな意識の糸を、俺の魔力が強引に掴み取った。


「勝手に終わらせるな……! 食わせてやるから、自分で起きろ!」


俺の手のひらの下で、止まっていた心臓が大きく一度、跳ねた。

真祖の血が全身の血管を駆け巡り、胸の風穴を内側から強引に埋めるように肉を再生させていく。


「……っ、ふ……あ……っ!」


フィアの睫毛が震え、その手の甲に『永劫の影紋』が鮮烈に宿る。

俺は安堵する間もなく、隣に横たわるミィアの喉元にも自分の血を滴らせた。


「ミィア、お前もだ。……連れ戻してやる!」


立て続けの契約。魔力の消費は問題ないが、意識が遠のくほどの疲労感が俺を襲う。視界がチカチカと点滅するが、ここで止めるわけにはいかない。

ミィアの記憶が流れ込む。そこには姉を慕い、一族を、そして大好きな空を守ろうとした小さな戦士の誇りがあった。


喉の傷が塞がり、失われた血液が急速に生成されていく。

やがて、絶望に満ちていたこの戦場に、あり得ないはずの力強い鼓動が再び響き渡った。


二人の少女は、信じられないものを見るような表情で自分の手を見つめ、そして隣に膝をつく俺を見上げた。


「お、お兄……さん……?」


「わたしたち……死んだ、はず……」


「おかえり。……お前たちの母ちゃんが、あそこで大暴れしながら待ってるぞ」


俺は二人の頭を乱暴に撫でて立ち上がった。

二人分の記憶と知識が一気に流れ込み、足元にふらつきを感じる。


だが、それ以上の満足感が、腹の底から湧き上がってきた。

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