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衣織の物語  作者:
88/89

衣織の物語86「synchronicity(シンクロ)」19

 地鳴りの音、大きくなる。二人は、耳を両手でふさぐ。地鳴りの音、やや小さくなる。

ユウ  原発は、地震と津波とによって、壊滅的な被害を受けた。

アオイ 核燃料は、電源喪失によって露出し、自ら発する高熱のために、自らの体を溶かしていった。

ユウ  そうして放射性物質が放出した。

アオイ 燃料デブリ取り出しは困難を極め、結局原発は、石の棺で覆われた。

 地鳴り、フェードアウト。明転。 (「シンクロ」より)



 影山先輩が、デッキで地鳴りの音を流した。小さな機器なので、重低音までは響かない。震災時、私たちが実際に聞いた音とはまるで違うけど、仕方がない。

 私と副部長さんは、音が鳴ると同時に耳を両手でふさいでしゃがんだ。少しして、副部長さんが私の腕をつついた。あまりにしっかりふさいでいたので、地鳴りの音が小さくなったことに気づかなかった。私は立ち上がり、セリフを発した。


私「原発は、地震と津波とによって、壊滅的な被害を受けた」

副部長「核燃料は、電源喪失によって露出し、自ら発する高熱のために、自らの体を溶かしていった」

私「そうして、放射性物質が放出した」

副部長「燃料デブリ取り出しは困難を極め、結局原発は、石の棺で覆われた」

 影山先輩が、地鳴り音をフェードアウトさせた。


遠藤「デブリって、いつから取り出せるようになるんだろう?」

部長「あれから10年も経とうとしているのに、取り出しはなかなか進まないね」

影山「福島第一原発も、この物語みたいに、永遠に封印するしかないんじゃないか?」

副部長「ホントにそうなるかも……」

先生「今でも年に一度は大きな地震が東北地方を襲っている。それは地球が、決してあの震災を忘れてはいけないと警告しているかのようだ。遅々として進まないデブリ取り出しは、避難先にいる元の住民たちの帰還意識を直接萎()えさせる。時々発生する大きな地震は、やはりあの場所へは帰れない・この場所にいてはいけない、という気持ちを増幅する。原発の近くで地震があると、必ずニュースはその状況を伝えるからね。そこに原発があり、燃料がある限り、私たちはずっとおびえ、心配して生きていかなければならない」

 今日も練習に参加していた先生が、そうつぶやいた。

遠藤「よく被災地の復興が言われ、先進的な研究機関が作られたりしてるけど、実際にここに住んでいる身には、なかなかピンとこないことが多い。なにか、よそで行われている感じがするというか」

副部長「大きな地震が来ると、いつも私は、原発の近くに住んでいるという現実を改めて実感する。いつもは忘れているかのようだけど、本当に危険なものがすぐ隣りにある……」

先生「震災前、原発はどんなことがあっても大丈夫、安全だと、根拠も無く信じていた。その信頼が裏切られたという心の痛みは、決して忘れられないだろう。その後の私たちへの対応も、ひどいものだった。相変わらず起こるトラブルとトラブル隠しにしか見えない電力会社の対応。政府の責任の取り方の不十分さ。そもそも原発事故はなぜ起こったのか、責任の所在があいまいなままだ。とすれば、誰も責任の取れないものが作られ、そうして破滅したということになる。人間の愚かさを感ぜずにはいられない」


 みんなは言葉もなく黙り込んでいた。


#小説

#高校生

#東日本大震災

#演劇部





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